群れになって夜空を飛ぶいくつもの影。
その群れは野を超え山を越え、その先にある丘の辺りでようやく飛ぶ速度を緩めた。
群れの先頭に立って飛ぶ一際大きな影。
緑色の鱗を全身に纏い、巨大な翼で風を受けて大空を滑空する一匹のワイバーン。
その背には弓と剣を装備した一人の人間を乗せ、人魔一体の空中戦闘を得意とする竜騎部隊を従えての威力偵察の任を任されていた。
『お疲れさま。今日も無事にみんなで帰れるね』
その背に跨る男は自分を乗せて悠々と大空を飛ぶワイバーンに労いの言葉をかけ、硬い鱗に覆われた肩の辺りを軽く撫でる。
しかし、当のワイバーンは難しい目つきで真っ直ぐ正面を見つめたままだった。
「う〜ん、これは帰ってからが大変だなぁ・・・」
男は今日の出来事からワイバーンの気持ちを察し、一難去ってまた一難だなと少しだけ気を引き締めた。
そして丘を越えた群れの目の前には、吹雪の中に大きくそびえ立つ山脈が待ち受けていた。
普通の人間であれば瞬く間に凍死してしまうであろう吹雪に、ワイバーンもその背に乗る人間たちも臆することなく突っ込んでいく。
実はこの山、普通の人間の目には吹雪の中に佇む険しい山に映るが、実際には山の麓に魔王軍の大型拠点が築かれ、それを魔術で見えないように偽装しているのだった。
そんな砦の一角にある地面が平坦に整えられた場所へワイバーンの群れはゆっくりと降下していく。
「ズシン、ズシン」と太い竜の足が大地を踏みつける音を響かせて砦に部隊の帰還を告げた。
するとそのすぐ横にある建物から大勢のワイバーン・・・とは言い難い、翼も小さく空も飛べない竜と蜥蜴の間のような小さなワイバーンが「わーわー」声を上げながら駆け寄ってきた。
『かーさま、とーさま、おかえりなさい!』
たった数百メートルの距離を走っただけで息も絶え絶えになっている小さなワイバーンたちは、大きな瞳をキラキラと輝かせながら部隊を率いていたワイバーンの足元に擦り寄る。
ワイバーンは背に乗せている男が降りやすいよう身を屈めながら、小さなワイバーン一匹一匹をペロペロと舐める。
男が地面に降りると瞬く間にワイバーンに囲まれ、まるで甘えるように身体を摺り寄せてきた。
『みんないい子にしてたかい?』
男は一際やさしい表情を浮かべると、手の届く範囲全てのワイバーンを両手でぎゅっと抱きしめる。
どうやらこの小さなワイバーンは全て、この男と部隊を率いていたワイバーンの子どもらしい。
抱きしめられた子どもたちは「きゃあきゃあ」とはしゃぎながら男に甘え、手の届かない範囲にいる子どもたちも「わたしもわたしも」と男を押し倒すように次々と身体を寄せた。
今まで背に乗せていた男と小さなワイバーンのじゃれ合いを見ていた母親だったが、身体を包む魔力のもやが消える頃には翼と尻尾、四肢の鱗を残して他は人間と似た姿に変化した。
威力偵察に出ていた他のワイバーンも背中に乗っていた人間を降ろすと、同じように次々と人の姿へとその身を変化させる。
『ねーさまも、にーさまも、おかえりなさい!』
一頻り母親と父親に甘え満足した子どもたちは、次はその後ろにいた若いワイバーンとそれに付き添う人間に標的を変えた。
彼らもまたワイバーンと人間の夫婦で、子どもはまだいないようだったが、いずれは子を産み、親と同じように育てることになるだろう。
しかし、その前に留守番していた分も遊んでもらおうと目を輝かせている妹たちの相手をしてやるのが先だった。
若いワイバーンとその夫は自分たちの手が届く範囲の妹たちを抱きしめ、その頭を撫でた。
待ちに待った家族の帰りに子どもたちは大はしゃぎでいつまで経っても抱きついて離れようとしない程だった。
ただ一人、母親に首根っこを捕まれて引きづられるように基地の中へ連れて行かれるワイバーンを除いて。
『シャーリィ!私の話を聞いているのか!!!』
長い廊下の一番奥にある扉の表札には、「竜騎部隊 隊長室」と書かれていある。
その表札が扉の奥から木霊する怒声の振動で「カタカタ」ゆらゆらと左右に揺れた。
『ま、まぁまぁ・・落ち着いて、ね?シャーリィも悪気があったわけじゃないんだし、そうだよね?』
机を壊さんばかりに両手で叩きつけて怒りに血管を浮かび上がらせているのは、先ほど部隊を率いていたワイバーン。
その正面に立ち、両者に「シャーリィ」と呼ばれているのが群れの最後尾を飛んでいたワイバーン。
そして、そんな二匹のワイバーンの間に入り、何とか仲を取り持とうと右往左往している人間の男・・・もとい、怒れるワイバーンの夫であり、シャーリィの父親。
つまり、この場にいる三者は親子だった。
『今回は無事だったから良かったものの、もし教団に捕まりでもしたら・・・』
母親はギリギリと歯軋りして娘
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