『さて、それじゃ俺んち行こっか!』
望の体温を感じて、夢心地だった俺はその言葉で現実に引き戻される。
『・・・今から?どうして急に』
『はあ?』
頭上にハテナマークを浮かべる俺に、望は呆れ半分、怒り半分の顔を向ける。
『俺にこの姿のまま1人で帰れっての?』
そう言われて望の姿を再確認する。
頭からは捩れた2本の角が顔を出し、背中からは黒い翼が生えていた。更に腰の辺りからも長い尻尾が垂れ下がっている。
『まさか・・・』
俺の頭を嫌な予感がよぎる。
『そ!今から俺んち行って、「状況説明」しなきゃ!』
『ま、待ってくれ!』
体中から嫌な汗が噴出し、心臓がバクバクと脈打つ。
『・・・なに?』
そんな俺に望は怒った顔を向ける。怒った顔もやっぱり可愛いなと思ったが、それどころではない。
確かに望の両親に今日の事とこれからの事を説明する必要はある。
・・・が、いきなりの話で頭が付いていかない。
『い、いや、心の準備が・・・』
『ああ、そんなことか。だいじょぶだいじょぶ!』
俺の言葉を受けて、望は笑いながら俺の肩をバシバシ叩く。
『手本見せたげるから!』
『・・・へ?』
唐突な望の言葉に変な声が出てしまった俺だったが、直後にその意味を知ることになる。
1階からガチャっと玄関の開く音がして、次いで聞こえたのは聞きなれた声。
『ただいま〜』
お袋だ・・・!
『誠司〜?帰ってないの〜?』
玄関の鍵が掛かっておらず、且つ俺と望の靴がある状況を考えれば、帰っていないわけがなかった。
『ま、まずい!』
このままではお袋は2階にある俺の部屋に来るだろう。普段、望が遊びに来た時にそうするように。
その証拠に、トントンと階段を登る音が近付いてくる。
『望!と、取りあえず服を・・・!』
そこまで言って俺の体は再び硬直する。
まさか・・・
『言ったじゃん。・・・手本見せたげるって』
望は再び俺に硬直の魔法を掛ける。
そしてついにお袋の足が部屋の扉の前で止まり、コンコンとノックされる。
『誠司?入るわよ〜?』
ゆっくりと扉が開き、お袋の姿が俺の視界に入る。
『おじゃましてます!』
望は、普段通りの調子でお袋に挨拶をした。
『え・・・望・・・君?』
お袋は固まったまま、何とかそれだけを口にする。
『はい、望です。訳あって魔物娘になっちゃったんですけど、今日から誠司と付き合うことになりました。これからもよろしくお願いします!』
望は眩しいばかりの笑顔でお袋にそう告げる。
『ま、魔物娘・・・?ていうか、二人ともその格好・・・』
お袋が困惑するもの当たり前である。
俺達は二人とも裸でベットの上に座り、望は俺に凭れ掛かるような体勢だ。
『あ、あらあら、まあまあ・・・』
状況を理解したお袋は手を口に当て、やや赤い顔で俺と望の顔を交互に見やる。
『急なことで驚かれるかもしれませんが、俺も誠司も同意の上でのことです!』
堂々と状況説明する望に軽い眩暈と尊敬を覚える。
『わ、私は別にいいのよ?二人がきちんと好意を寄せ合っているんだったら問題ないわけだし・・・』
『じゃ、じゃあ・・・』
『体ばっかり大きくて、望君に迷惑掛けるかもしれないけど・・・悪い子じゃないから、これからも息子と一緒に居てあげてね』
『・・・はいっ!』
たったそれだけの会話で、望は俺との関係をお袋に説明し、且つ許しを得た。
これは魔物娘だからこそなのか、それとも人間だったころから望がお袋のお気に入りだったからなのか・・・
どちらにしろ、望の言う「手本」とはこのことだったのだ。
改めて、魔物娘の恐ろしさを実感した・・・。
しかし、いい事はそう続かず・・・
望の両親に状況説明した俺は、望の父親から熱い拳を1発貰うことになった。
母親の方は最初こそ困った顔をしていたが、「息子が娘になってこれで一緒に買い物や料理ができる!」と満更でもない様子だった。
結果的に了承してもらえたものの、望の父親に二人してしこたま説教を食らったのは言うまでもない。
その日、望は病院を訪れていた。以前、階段から転げ落ちた時に運び込まれた病院である。
今日は退院してから定期的に通っている定期健診最後の日だった。
『早川さん、体の調子はどうですか?』
机に向かってカルテを書きながら、担当医である鬼怒川は望に尋ねる。
後日知った話では、魔力治療を施してくれたこの医者も魔物娘で、種族はヴァンパイアという事だった。
『いやー、結局魔物娘になっちゃいましたけど、この通りぴんぴんしてます!』
望はそう言って照れくさそうに頭を掻く。
『そうですか。いえ、健康であればいいのです』
そんな望に柔らかい笑みを向けて鬼怒川も答える。
『ところで、相手の方は・・・あの時一緒にいた「彼」ですか?』
鬼怒川の質問に「良
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