イレットを家の外に連れ出すことが決定した。
当然、外出用の服が要る。あんな時代錯誤なドレスを着せて外に出したら、職質待ったなしだ。
ところがイレットは――。
「服とかよく分かんないからお兄様が選んで」
と投げやりなことを言うので、仕方なくぼくが選ぶことになったんだけど、女性ものの服のことなんてさっぱり分からない。
ついでに言うと、一人で女性服をレジに持っていけない。これもまた職質待ったなしだろう。
仕方ないので、知り合いに頭を下げて、服を買って来て貰うことにした。
大学で知り合った女友達だ。精々遊びや飲み会で一緒になることがときたまある程度で、こんな図々しい頼みごとが出来るほど親しくもないが、そもそも女の知り合いが殆どいなかったという悲しい事実。
今は飲み会中で、だから酒の勢いに任せて約束をとりつけてしまうことにした。
「適当に女の子用の服を見繕って欲しいんだけど。お金はもちろん出すから」
「はあ……? いいけど、え、わたしの服が欲しいってこと? え、変態?」
「違うそうじゃない。そうじゃなくて、……実は、そう、親戚の子を預かってて、その子の服がいるんだけど、良く分からないから」
「じゃあ店にその子連れてって買えばいいじゃない」
「外に出たがらないんだ」
いかにも怪しいという顔をされる。
「……なんかそれ、ヤバい話じゃないよね?」
「何がどうヤバいんだ」
「誘拐とか監禁とか」
「してねえよ。いいから黙って言うこと聞け。現金先払いで釣りは全部やるから」
「……はあ」
呆れた顔。
「まあ、お釣りくれるならいいよ。……っていうか、サイズいくつ?」
あらかじめ測っておいたイレットのサイズを言うと、さらに訝しげな顔をされる。が、現金を五万渡したら引き受けてくれた。金持ちで助かった。
『え、ロリコン?』みたいな目で見られたけど、仕事さえしてくれればなんでもいい。
飲み過ぎた。
身体に酔いが回って、少し頭痛がする。洗面台で顔を洗った。鏡に写ったぼくの顔が、赤らんでいる。
もう、深夜十二時だ。明日が土曜日で助かる。
「疲れた、寝よう……ああ、イレットは?」
リビングに、イレットを探しに行く。
リビングの扉を開くと、イレットがカーペットに寝そべって漫画を読んでいた。ちゃんと良い子にしていたようだ。食卓の方を見ると、用意しておいた昼食も残さず食べていた。言いつけどおり、食器もキッチンの水に漬けてある。
「お兄様、お酒くさいわ……」
「ごめんごめん。でも、半分はイレットの為だから」
「わたしの?」
カーペットに座り、服のことを説明する。
「――ってわけで、その友達にイレットの服を頼んだから」
「あーそれもういらない」
「は?」
「服ね、ちょうどいいのが家にあったのよ。きっとお兄様のお父様が、わたしのために用意しててくれたのね。洋館の洋服ダンスの中にあったわ」
いや先に言えよ父さん。もう五万渡しちゃったよ。
「どんな服?」
「派手じゃなくて、地味で、仕事にもつかえそうな服。外出にピッタリね。きっと気に入るわ」
「へえ。そりゃ楽しみだ」
地味なのは良い。いま着てるドレスみたいな人目を引く派手な服だと、職質されるかもしれないし。
「お披露目してあげよっか?」
「……いや、もう酔ってて眠いし、明日で良いよ」
「うん。じゃあここで待っててね。いま着て来るから」
何がじゃあ、なのか。相変わらずぼくの言うことを聞かない女だ。
イレットがリビングを出て、和室からふすま越しに衣擦れの音がする。着替えているんだろう。
携帯をポケットから取り出した。服をキャンセルするように言っておかないと。でももう寝てるかもしれないから、メッセージだけ送っておこう。『ごめんけど、さっき頼んだ服の話はなしに――
ガラガラ、ふすまが開いた。イレットが自信満々な顔でこっちを見ている。
ぼくは唖然とし、携帯を床に落とした。
「どう、似合う?」
「…………」
改めてイレットを見る。
胸元が開いた、水色の半そでシャツ。
めちゃめちゃ短い、黒のタイトスカート。
両足には、黒いストッキング。
頭にかぶっている、黒い帽子の真ん中には、金色の紋章。
右手には黒い拳銃。
左手には銀色の手錠。
一言にまとめるなら、婦警さんだった。
理解不能。
イレットは、右手の拳銃をぼくに向け、
「ばっきゅーん
#9829; 逮捕しちゃうゾ
#9829;」
「アホか! そんな服着せて外だしたら、マジで逮捕されるわボケ!」
ぼくがね!
本物の警察が来て「ちょっと、署までご同行願います」からの実刑コースだよ! しかもやることやってるから言い訳できないのが尚のことたちが悪い。
イレットは、小首を
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