お兄様と出会ってから一か月。
お兄様は目に見えて変わった。
もともとお兄様は、どちらかというとドライで、情が薄い人だと思う。いや、情が薄いわけじゃなくて……現実主義? ってやつ?
だけど最近は、わたしに優しく、甘くなった。頭を撫でてって頼んだら撫でてくれるし、ちゅーしてっていったらしてくれる。ご飯もおいしいのを用意してくれる。
でも、まだまだ足りない。
わたしは、いままでたくさん、他のリビングドールが男達を籠絡するところを見てきた。そのいずれも、数時間のうちに男の目が漫画みたいにハートマークになって、性衝動に身を任せ、男はリビングドールを貪り、愛した。リビングドールの魔力と魅力は、それほどまでに強力なのだ。感情で抑え切れるレベルではない。薬のようなものだ。
なのにお兄様は、一か月たっても正気を保ってる。そりゃ、セックスを迫れば断らないけど、どこか、わたしとの間に一線引いている節がある。
そんなのおかしいわ。
今日だって、大学に行くだなんて言って……。休めばいいじゃない。
「……ムカついてきたわ」
家に一人取り残され、やることもなくイライラしながら、リビングをうろうろする。わたしの足は、それはもう床を踏み抜かんとするくらいドンドンと大きな足音を立てていた。
「……そりゃ、大事にはしてもらってるけど……」
お兄様と初めて出会った日、お兄様はわたしを思いやって、洋館からこちらの家に来るように言ってくれた。あの時は、わたしに惚れてくれたと思った。他にも、デザートを買ってきてくれたり、本やゲームを自由に使わせてくれたり、しきりに何か必要なものはないか訊いてきたり、とにかくわたしが不自由しないようにと、気遣ってくれた。
でもそれらは、わたしに対する愛からの行為ではなかった。
ただ、お兄様の善意と常識がそうさせただけ。
思い上がった、わたしが馬鹿だった。
「……お兄様の癖に……お兄様の癖に……お兄様の癖に……」
親指を噛んで、呪詛のようにお兄様を呼ぶ。
お兄様の癖に、わたしにこんな寂しい思いをさせて……許されると思ってるのかしら。
「お兄様の馬鹿! アホ! 早漏!」
なんて言ってみても、誰も聞いてくれない。っていうか、別に早漏じゃないけど……。
お兄様は今日は、授業とやらがたくさんある日で、それどころか飲み会まであるから夜まで帰れないとか……ふざけんじゃないわよ。
……もしかして、他の女にうつつを抜かしてるんじゃないか。
……いまも何処かで、誰かがお兄様に色目を使っているかも。
そう思うと、いてもたってもいられない。
「はあ……」
ため息が出た。
浮気の心配だなんて、リビングドールの名折れだ。
暇だなあ……
ゲームも本も飽きたし……
お兄様に会いたい……
「……あ、そうだ、まだやってないことがあったわ」
凄く大事なことを忘れていた。どうしていままで忘れていたんだろう?
わたしは走ってリビングを出て、階段を駆け上がった。
「ってわけで、お兄様の部屋にとうちゃーく」
特別お洒落なわけでも、簡素なわけでもない、フツーの部屋。広さは六畳くらい。
もちろん、やることは一つ。
「物色、物色……ふふっ」
ニヤニヤしながら、両手をわきわきする。
探すのはもちろん、えっちなグッズだ。エロ本とか。
お兄様の部屋に入るのは初めてじゃないけど、思えば物色はしたことがなかった。
「どうして今まで忘れてたのかしら」
何か、お兄様を揺すれるネタが手に入るかも。
そしたらそれを盾に脅しをかけて……ふふっ、今から楽しみだわ。
「さーてまずは、まあ、ベッドの下よね」
定番だ。お兄様の漫画にもそう書いてあった。
屈んで、覗き込む。
「……何もないわ」
埃くらいしかない。
まあ、お兄様の性格を考えると、ベッドの下にエロ本は安直すぎたかもしれない。もっとこう、陰湿なカモフラージュをしているはず。
ってわけで、部屋をくまなく探す。
その所為で、部屋が散らかっていく。でも知ったことか。わたしに寂しい思いをさせた罰だ。怒られそうになったら、えっちな手を使ってセックスに持ち込んでうやむやにすればいい。
我ながら、酷い女ね。
それにしても……
「おかしいわ……。何にもないじゃない」
エロ本の一冊も見つからない。
「あ、そっか」
デスクトップのパソコンを発見。迷いなく電源をつけた。
これに違いない。時代はデジタルなのだ。
きっとここに、えっちな何かがあるはず。
こう、お兄様の性癖が分かるような……
「……しまった。パスワードが分からないわ」
電源をつけたら、ログイン画面が表示された。
お兄様がパソコンをしている時、よく
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