男は歩く、
その草原をゆっくりと、
男は歩く、
その胸に怒りをいだいて、
男は歩く、
その両手に鎌を携えて、
男は歩く、
その身に仏さんの恨みを背負って、
男は歩く、
その魂に自らの信念を掲げて、
「誰だ!」
男がいるのは草原、そして戦場、所属不明の人間がいれば声を掛けるのは必然。
しかし、問われた男は周囲の気圧を下げるかの如く息を吸い、そして、
「喝!」
雷鳴のごとく轟く声と、人とは思えない強烈な気当たり、
かの橋に仁王立ちした有名な武将を彷彿とさせるそれに対し、
ある者は卒倒し、
ある者は怯み、
ある者は武器を構え、
そしてある者は戦場には不似合いな安眠から目を覚ます。
「誰じゃ!余の眠りを妨げるものは、誰ぞ捉えて余の前に引きずってくるのじゃ!」
「「「承知しました!」」」
戦場にいることがどういう事か認識できぬような無能な王であっても、彼らはただ肯定の言葉を述べ、行動するよりほかない、それが下に仕えるものの義務であるから。
「やっぱ、師匠のようにはいかねぇか。」
突然の襲撃に慌ただしくなった陣営の前でボヤく男が一人、自らの行いが起こした結果に不満げな様子を隠そうともしないのが襲撃の張本人であり、この戦争を買い取った鎌居凪その人である。
余談に過ぎないが彼の師匠が彼と同じことをしたらどうなるか、大声にによる一喝を加えなくとも気当たり一つで全員揃ってあの世行きである。
誤解の無いように言っておくが、暗殺者というのは決して“殺気がない”者のことではない、“殺気を出さずに”相手を仕留めることのできる者である。
凪は思う『馬鹿野郎、当たり所が悪かった以外で殺す気がないのに相手が死ぬ世になってみろ。そりゃおめぇ修羅場ってやつだ、俺ぁ怖くてその辺散歩することもできねぇや。』
痒くもない頭を掻きながら一言、
「しっかし、どうしたもんかね。」
粋でいなせな江戸っ子とは言えないがジパング人な凪は歳不相応に無鉄砲なところがある、そうでなければ単身ジパングから大陸まで文字通り海を渡ってきたりなどしない。
「取り敢えず、いつものアレといきますか。」
凪は覚悟を決める。
大きく息を吸う、聞きやがれ、こいつが俺の誇りだ。
「己が命を火薬とし、 己が魂を焔とし、 深く暗ぁい浮世の闇に、 ものの見事な炎の花を、 咲かせて魅せるが人生よ! 我は鎌居!師の技を継ぎし者! 我は凪!この戦風を止める者! いざ、浮世の鬼を退治せん!」
てめぇら、覚悟しろよ。俺が買ったのは仏さんの怨みだけじゃぁねぇんだ。てめぇらが起こしたこの戦、全部まとめて買い取った。
しかし、イキるなイキるな。男三十過ぎていいかっこしようなんざ、落ち目になった証拠よ。って旦那も言ってたからなぁ、俺もそろそろ落ち目かもしれねぇぞ。
凪は武器を構える、大陸の東端にある地方で使われるトンファーと呼ばれる武器の先端に、鎌のような湾曲した鋭利な刃がついた二振りの武器が己の命と誇りを預けるもの。遠目に見るとマンティスのそれに見える彼の師匠から貰った決して金には買えられない武器。
師匠は「魔…王様から…もらっ…た、私…のより、劣る…からあげ…る」なんて言ってたが、今の魔王の考え方からするとそいつぁおかしな話なんだよな。ま、考えたって解らないものは解らねぇし、何にせよこいつがいい得物だってことは変わらねぇ、今回も働いてもらうぜ。
そうこうしているうちに敵陣から一人出てきやがった、あの風格と身のこなしからして頭かそれに準ずるものか。どちらにせよ少し様子を見てみるか。
敵陣から出てきた男−重厚な鎧とそれを着こむ大柄な男が隠れられる大盾、そして無骨ながらも研ぎ澄まされた槍を持つ男は凪に向かって叫ぶ。
「我が名はサイマンティック・ノートン! 我が信ずる王がため、 我が守る民がため、 我が背負う兵がため、 我が掲げる騎士道のため、 鎌居凪!貴殿に一騎打ちを…」
彼の口上はそのすべてを終える前に停止する、
死んだわけではない、
気絶したわけではない、
ただ、
彼の想像を越える事態が起きたが故に。
彼の大切な物を守る大盾も、
彼の命を守る鎧も、
彼の騎士道を貫く槍も、
その全てが細切れになって彼の足元に意味を成さない鉄くずとして転がっていた。
「なん…だと。」
ノートンはいつの間にかそこにいた凪の背後で声を上げる。
凪は振り返り失意に沈む彼の肩を叩き一言、
「侍は古い、時代は忍者だ。」
この時、姿を隠しながら一部始終を見ていた司令官達の間に広がった『汚いなさすが忍者きたない』は後に名言として一世を風靡することになるのだが、それはまた別の話。
凪は言う、「一つだけ、四十を過ぎたおっさんから忠告だ。てめぇの守りたくないものを義理だの何だのに縛られていつまでも守ってんじゃねぇよ、そんなんじゃおめぇ、いつか本当に護りたい
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