第二部:熱血!鉱石掘りマラソン

「あぢぃ。」

齢四十にして不惑の男、鎌居凪は噴き出る汗と共に愚痴を漏らした。
それもその筈、男がいるのは火山、それも熟練の狩人のみが立ち入りを許される区域。

何故そんな所にいるのか?オリハルコンを手に入れる為。
狩人ですらない男がどうやってここにいるのか?不法侵入。
噴火したらどうするのか?2落ちまでなら大丈夫。
とまあ、オリハルコンの採れる鉱脈目指してつるはし片手に邁進中の凪だが暑いものは暑い。

暑さを和らげる不思議な服など持ってるはずもなく、
今の今まで身なりに気を遣わなかった男が装飾品などに手を出してるはずもなく、
身体が冷える不思議な飲み物も持っていない、
仲間から分けて貰えば・・・残念ながらオフラインだ。

とは言え、この暑さをどうにかしないことには先へ進む気がしない。
現状でもただ歩いているだけにもかかわらず、気力がまるで多段ヒットの超必殺技をガードした時のようにガリガリと削られていく。
一旦リタイアして装備を整えてきたらどうなのか?
否、人生にリタイアもリセットもロードもセーブもコンティニューも存在しない。
ただ、無限に分岐するシナリオを進んでいくしか方法はない。

その無限の分岐の内の一つ、暑さを無効化する方法を彼は心得ている。
しかし、その使用を今までしてこなかった程にそれは危険な諸刃の剣。
一流の狙撃手は目標の達成の為に寝食や糞尿の処理、その他諸々の不必要な感覚を切り捨てることが出来るという。
得物こそ違えど暗殺者にとって必要な技能の内の一つ、その応用。
己の感覚から不快となる物を切り捨てる。
だがそれは、彼のような人間がこのような場所で行うべき物ではない。
生命体が必要とする危険信号の一切を無視するという物。
言うなれば某光の戦士がカラータイマーを装着せずに地球に降り立つような物。

それでも彼はその選択肢を選び取る、こうするしか他方法がないが為に。

「此処若無我、心頭滅却。吽!」

呪文でも何でもない只の言葉、その連続した音が彼の口から発せられ終えたのと同時に彼の意識から暑さや肌を伝う汗の感覚、多種多様な目的達成に不必要な感覚が切り離される。
これで彼の進行を阻む物は無くなった。

「さてと、それじゃあ行きますか!」

言うが早いか動き出すのが早いか、彼は常人には理解も共感も出来ない速度で山道を駆け上がる。
さながら重力に引っ張られて落ちていくかのような速度で上へ上へと進んでいく。
もしここにカメラマンが居たならば取り残されて彼の姿はとっくに画面外へと消えていただろう。
彼は急ぐ、ただ急ぐ、
これまでの調子が嘘であったかのように、まるで平地を駆け抜けるかのように、
感覚の内の不快な物を取り去った彼はどのような状況においても平時のポテンシャルを発揮する。

ならば何故、この技術は普及しなかったのか?
それはこの技の刻限それ即ち、命の刻限であったから。
この技法の本質、それは・・・
沸騰した水の入っているやかんに手を触れてもやけどをしなくなるのではなく、
やけどしたことを認識しないようにすること。
命をどぶに捨てる技法が流行る訳など無い。

護身の技術の集合を武術と呼ぶならば、
その真逆、捨て身の技術の集合たる暗殺術。

弱者が最後に縋る藁、
勇者でも英雄でもなく、
天分の才も恵まれた身体を持つ訳でもない、
ただの人間たる彼が強者の位にしがみつく為の技術。

そうこうしている内に採掘できそうな所へ着いた、狩人達の間では5番だか6番だか言われている所。
一体どういう意味なのだろうか?
「よし、この辺りのはずだが・・・」
あった。
岩壁に取って付けたような感じの割れ目を発見する。
試しに近づいてみると今までつるはしにあった×印が消えている。

つるはしを振りかぶって、
振り下ろす、
大地の結晶を入手しました。
偉大なつるはしが壊れました。
おいおい、マジかよ。
悪霊でも憑いてるんじゃなかろうか?

大丈夫、偉大なつるはしは一度に5本まで持てるからまだあと4本ある。

振り下ろす、
鉄鉱石を入手しました。
違う、

振り下ろす、
マカライト鉱石を入手しました。
これも違う、

振り下ろす、
大地の結晶を入手しました。
いらん、

振り下ろす、
石ころを入手しました。
偉大なつるはしが壊れました。
なめてんのか!

怒りと共に偉大なつるはしを地面へ叩きつける。
偉大なつるはしが壊れました。
偉大なつるはしが壊れました。
偉大なつるはしが壊れました。

しまった、採掘用の道具が残ってない。
仕方ない、いっぺん諦めて帰るか。

「・・・めんなよ!」

後ろから声が聞こえる。

「あきらめんなよ!」
「諦めたんじゃない、これは戦略的撤退だ。」

安物つるはしか、普通のつるはしか、偉大なつるはしが無ければ採掘は出来
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