「たかくん、パスポートパスポート!」
「おお、忘れるところだった」
俺は妻のクリムからパスポートを受け取ろうと振り返る。
「……………」
「ん?どうした」
クリムは俺にパスポートを渡そうとせず、なんだかもじもじしていた。
見た目は小学生といってもいい容姿の彼女がそうしているととても可愛らしい。
「これ渡しちゃったら、たかくん一週間もいなくなっちゃんだよね」
「仕方ないだろう、台湾の工場のトラブル解決にどうしても俺が必要っていうんだ」
生産機械の開発を担当している俺は、これから台湾にある会社の工場へ出張に出るところだった。
「むー、さびしいなあ」
「我慢して留守を守っててくれよ。帰ってきたらお楽しみだ」
俺はクリムの頭をなでながら、そっと彼女の帽子の色を確認する。
彼女はレッドキャップという種族。ムラムラがたまってくると帽子が真っ赤に染まり、ひどく凶暴になる。
……うん、帽子は真っ白だ。昨日はいっぱいラブラブしたからな。
一週間程度なら少々ピンク色になって不機嫌なくらいで済むだろう。
「ちゃんと帰ってきてね。カレンダーにも書いといたから」
クリムの言うとおり、ダイニングにかかっているカレンダーには一週間後の日に『たかくん帰宅!仲良しする日!』と丸っこい文字で書かれていた。
「ほら、いつもの」
「はい。行ってらっしゃいのちゅー」
そう言って俺がクリムの前にかがむと、クリムは俺の首に両手を回して俺にキスをする。
ああ、俺、クリムと結婚してよかったなぁ、と幸せをかみしめるも、いつまでもこうしているわけにもいかない。
「じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃーい」
愛する妻の声を背に受けて、俺はスーツケースを持って玄関のドアを開けた。
一週間後。
『ええー!帰ってこれないのー!?』
出張が長引きそうなことを告げると、電話の向こうからクリムは不満そうな声をあげた。
「悪いな。仕事が結構かかりそうなんだ」
生産機械の不調の原因がどうにもつかめず、帰国予定の日になっても俺は台湾から離れられそうにないのだ。
『そんなぁ。クリム寂しくて死んじゃうよう』
「なあに、来週には帰れるさ。だから心配しなくていい」
『ううー、帰ってきたら、いっぱいしてもらうんだからね』
二週間ならクリムの性欲のたまり具合もギリギリ大丈夫だとは思うが、なるべく早く片づけたほうがよさそうだな……。
さらに一週間後。
『ん?なんて言った?』
ドスのきいた声が電話から聞こえてくる。
「ええと、その、実は修理部品の手配が遅れてて、まだ帰れなくて」
度重なる帰国の延期に俺もだいぶんうんざりしてきているが、途中で投げ出すわけにも行かない。
とはいえ、クリムをほったらかしにするのは色々な意味で心配だ。
『今週中には帰れるって言ったよね?ねえ?』
「す、すみません」
『バイブとかローターとかじゃもう限界なんだよ。たかくんのオチンチン欲しすぎて欲しすぎて、もうどうしようもないんだけど』
やばい。これはやばい。クリムは相当溜まっている。
「何とか次の週末、いや明後日には終わらせて帰るから!」
『ぐるるるる……帰ったら覚悟してね。足腰立たなくさせてあげるから』
と、とにかく超特急で仕事を終わらせないと、帰ったらとんでもないことになりそうだ。
さらにさらに一週間後。
『ぐるるるる……』
「く、クリムさん?」
『ぐるるるる……』
もはや電話からは唸り声しか聞こえてこない。
「台風がね、三つも来ててね、飛行機が、飛ばなくてね、これは不可抗りょ」
『ファアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ×!!!!!』
「!?」
『×ァック!×ァック!×ァック!×ァック!×ァック!×ァック!』
「お、落ち着いてクリム!帰ったら一晩、いや一日中でもしてあげるからっ」
『たかくん帰ったらレイ×する。絶対する。レ×プレ×プレ×プレ×プレ×プレ×プレ×プレ×プレ×プレ×プ』
「あわわわわ・・・」
結局、俺が帰国できたのはそれからさらに一週間後だった。
「怒ってるとか寂しがってるとか、もうそういうレベルじゃなくなってる気がするが……」
自宅への夜道を歩きながら俺はごくりと唾を飲み込む。
独身のレッドキャップであれば、適当にそこらの男をとっ捕まえて性欲を発散させているだろうが、伴侶を得たレッドキャップはそれをせずにひたすら欲動と凶暴性を高めていくという。
もはや、クリムがどんなケダモノと化しているか想像もつかない。
とはいえ、つらい思いをさせたのは確かだし、何より俺はあの子のすべてを愛している。
「これも夫の務め。待っていてくれクリム……ん?」
俺がクリムに犯される決意を固めていると、ごりごり、ごりごりとアスファルトを重い金属が削るような音が聞こえて
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