「あっさでっすよっ!」
布団を引っぺがされ、俺はまどろみの中から強制帰還させられた。
「ロディさん、おはようございますです!」
この朝っぱらからハイテンションな娘はキオ。
純白色のショートカットに大きな垂れ耳が印象的なワーラビットだ。
キオはベッドの上の俺にのしかかり、くるくる動く純真な瞳で俺を見つめてくる。
「さあさあ、ロディさんの朝勃ちをキオが鎮めてみぎゅ」
俺は無言でキオの耳を左右に引っ張った。
話は数週間前にさかのぼる。
「人参農家のロディさんですね! お願いがありますっ!」
「お願い?」
町へ人参を出荷しにいったとき、往来でいきなり声をかけられた。
そのウサギの獣人──ワーラビットは、ぴょんこぴょんこ近寄って来て頭を下げる。
「キオと交尾してくださいっ!」
「・・・・・・はい?」
一瞬思考が停止する。
「だから、交尾です。交尾」
「え、ちょっと、交尾ってあの交尾?」
「はいっ!おちんちんをおまんまんに・・・」
「い、いやいや、説明はいいから」
「あ、ニンゲンは交尾のこと別な言い方するんですよね。えーと、セックス?そう、セックスしてください!セックもごもご」
往来で卑猥な発言を続けるキオの口をふさぎ、俺は人気の無いところへ彼女を連れて行った。
「一体何なんだ!魔物とはいえストレートすぎるぞ!」
「キオ、ロディさんのお嫁さんになりたいんです!」
どうやら、彼女の中では交尾イコール結婚と色々すっ飛ばされているらしい。
「人参農家のお嫁さんになれば人参食べ放題かなあって」
そして実に短絡思考である。
「この前、ロディさんが作った人参食べたんですけど、信じられないくらいおいしかったんです!人参界のパラダイムシフトです!あんな人参を毎日食べれればなあって思うと、いても立ってもいられなくて!」
自慢の野菜の出来を褒められるのは悪い気はしない。
だが、それとこれとは別である。俺の人生設計には、下半身が毛皮に包まれてる魔物娘と結婚するという項目はなかった。
「だから交尾してください♪」
「お断りだ」
俺はしつこく食い下がるキオを置いて、逃げるように町をあとにした。
荷馬車を飛ばし、ようやく家に帰り着く。
「やれやれ、とんでもない魔物もいたもんだなぁ」
野に咲く花のような鮮やかな笑顔で、高原を吹く風のごとく爽やかな声で、交尾しましょうときたもんだ。
こういうことはサキュバスでさえ、もう少し婉曲に誘うものなんじゃないのか。遭ったことないけど。
悪い子ではなさそうだが、あれが本気なら少し、いやかなりアホの子である。
「口さえ開かなきゃ、結構可愛いかったんだがなぁ」
「えへへー、照れちゃいます」
「おわぁ!」
荷台から声をかけられ、俺は口から心臓が飛び出るほど驚いた。
振り返ると、さっきのワーラビットがいつの間にか荷台に載っている。
「おまっ、どうやって」
「普通に走って追いつきました!」
さすがはウサギ脚ということか。
「ここがロディさんのおうちですか。おうちで交尾する派だったんですね!」
「だからしないって!・・・・・・ん?」
そのとき、この辺りで手紙や荷物などを運んでいるハーピィが舞い降りてきた。
「ちわー、シルク運送便っス!小包を届けに来たっス!」
「ちょうどよかった。銀貨5枚でこのワーラビットを港町まで運んでやってくれ。迷子らしい」
俺は懐から小銭を取り出して言った。
「あいあいさー!」
ハーピィのシルクはキオをかぎ爪でつかむ。
「わわっ、キオは迷子じゃないです!」
「家出したらしくて、帰るのを嫌がるかもしれないが、親が心配している。しっかり送り届けてくれ」
適当な嘘を並べ立てる。
「了解ッスー」
迅速配達がモットーのシルクは、暴れるキオをものともせず大空へと舞い上がっていった。
翌朝。
夜明け頃から人参の収穫をしていたところに彼女は再び現れた。
「はぁ、はぁ、キオは諦めませんよっ。さ、さあ交尾を」
港町からずっと走ってきたのか、ヨロヨロのフラフラである。
というか軽く二十里はあるぞ。ガッツだけはすさまじいな。
「まあ、とりあえず取れたての人参でも食って一息つけ」
見かねて俺は人参を一本差し出した。
「はううっ、ロディさんの人参!」
キオは土がついたままのそれをカリコリカリコリ猛烈な勢いで食べる。
「ああああ、舌の上でしゃっきりぽんと踊りますぅ」
意味が分からない。
彼女の食いっぷりが気に入った俺は、さらに二本提供する。
「まさに甘露!まさに滋味!たまんないですぅぅぅ」
「そうかそうか。じゃあお土産もあげよう」
かごにいっぱいの人参を渡してやる。
「ありがとうございます!ありがとうございますっ!」
「じゃあ、元気でなー」
「はーい」
お土産を手に、キ
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