「死ね、メストカゲ! 主神の加護を受けた剣を食らいやがれ!」
「死ぬ? お断りだな。我が死ねば、ヘリオが悲しむ。もっとも、死んだところでドラゴンゾンビとなってよみがえるつもりだがね!」
舞うように二振りの剣を振るい、エリックはルナを切り刻まんと怒濤の攻撃を叩き込む。それに対し、ルナは『手刀』で応戦していた。
主神の加護で強化された聖剣とて、そう易々とドラゴンの強靭な鱗を切り裂き貫くことは出来ない。特に、ルナはすでにヘリオと交わり、彼の精を受け取っている。
結果、彼女の身体を覆う鱗はより堅く、しなやかなものになっているのだ。同族の一撃ですらも、易々と防げるほどに。
「どうした? それが貴様の全力なのか? ホーリープレートとやらで、確かに主神の加護は強化されているようだが……貴様自身の技量が追い付いていないようだな」
「舐めた口を。俺はラーディリア最強の勇者、エリック様だぞ! そんなに見たいなら、俺の本気を見せてやる!」
そう叫ぶと、エリックは少しだけ後退する。直後、右手に持った剣で物凄い速度の突きを放った。さらに、相手の逃げ道を塞ぐべく左手の剣を振るう。
並みの魔物であれば避けることも耐えることも出来ずに、致命傷を負っていただろう。だが、ルナは違った。
「なかなかの速さだ。我が相手でなければ、決着をつけられただろう。だが!」
「ぐおっ!」
「宝を守るために戦う竜の強さを、貴様は甘く見すぎていたようだな!」
「ぐ、うう……」
突き出された剣を掴んで止め、エリックの胴体に尻尾を叩き付ける。剣を手放したエリックは吹き飛び、木に背中から叩きつけられた。
上半身を覆う鎧がヒビ割れ、粉々に砕け散る。エリックの胸に埋め込まれているホーリープレートが、激しい明滅を繰り返す。
「化け物め……! だが、俺を倒せても……ヘリオは守れねえぜ」
「なに? それはどういう意味だ?」
「すでに、俺の部下たちを城の中に魔法で送り込んだ。ホーリープレートは、お互いの存在を感知する能力がある。どこに逃げようが、必ず奴は捕まる。そして死ぬんだよ! ひゃはは……はがっ!」
「黙れ、外道が。……旧魔王時代でなくてよかったな。もしかつての世であれば、我は貴様を殺していたぞ」
エリックの頭に尻尾を叩きつけて気絶させた後、ルナは翼を広げ羽ばたく。ふわりと身体を浮かび上がらせ、ヘリオを救うため城の方へ戻っていった。
・
「ホーリープレートの反応はこの中だ。ヘリオめ、とうとう観念したな」
「見つけた隠し通路は片っ端から封印したからな。それに、プレートがある限りどこまでも追跡出来る。あいつもそれは嫌というほど理解してるはずさ」
ヘリオを追う勇者たちは、ついに彼を宝物庫に追い詰めた。逃げ場はもう無く、相手は袋のネズミ。容易く捕らえられると舐めてかかっている。
「さあ、覚悟しろヘリオ! もう逃げ場はな……!?」
「こ、これは! あいつまさか!」
宝物庫の中に、四人の勇者たちが雪崩れ込む。だが、中にヘリオはいなかった。代わりにあったのは、床に転がる血の付いた斧。
そして、血だまりの中に落ちている――切り落とされたヘリオの左手だった。追跡を振り切るために、彼は自らの手ごとホーリープレートを切り離したのだ。
「ありえねえ、正気かあいつ!? 俺たちから逃げるためとはいえ、こんなバカげたこと……」
勇者たちが驚愕していると、宝物庫の扉が閉まった。外から鍵をかけられ、勇者たちは閉じ込められてしまうこととなった。
「しまった、ヘリオだ! あいつ、俺たちをここに閉じ込めるつもりだったな!」
「あんな扉、魔法で……!? なんだ、魔法が撃てない!?」
「宝物庫全体が結界に覆われてるんだ! これじゃあ魔法が使えねえ、クソッ!」
これでもう、勇者たちは誰かに助けてもらわない限り外には出られない。ヘリオは安堵の息を吐きつつ、中庭に向かう。
宝物庫にあった秘薬のおかげで失った手は元通り再生したいるが、ダメージは大きい。よろめきながら、必死に歩いていく。
「早く、行かなきゃ……中庭にある、隠し通路を使えば安全な場所に逃げられる……うう、手首が痛い……」
なんとか中庭まで逃げ延びたヘリオは、一息ついて休む。その時、羽ばたきの音と共にルナが舞い降りてきた。
「ヘリオ! ああ……よかった、無事だったんだね。本当によかっ……その左手、そうか、君は……」
「ルナさんが宝物をたくさん集めてくれてたおかげで、僕は自分の手ごと……ホーリープレートを切り離せました。とても痛かったけど、これでもう僕を追跡……んむっ!」
「君に辛い決断をさせてしまったね。本当にごめんよ、ヘリオ。でも、君も手も……無事でよかった」
「ルナさん
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