続・我が家のダメ吸血鬼。



     1


ここは魔界のとある名家の御屋敷。
その庭先では三人の美女姉妹による優雅なお茶会が開かれていました。

「ねぇ、エリスお姉様。」

「どうした?ユアナ。」

「本日は何故、外でお茶会を?いつもはお姉様かわたくしの部屋で行いますのに…。」

「そういえば変ね。それにお茶会に誘ってくるのはいつもユアナ姉さんのはず。エリス姉さんが誘ってくるって事は何かあったの?」

「ああ、それはだな。」

長姉はカップを一度テーブルに置き、トントンとテーブルを指で叩く。
するとテーブルの上に置いてあったポットが宙を舞い、空になった長姉のカップに熱い紅茶を注ぎ込んだ。
自慢のきらびやかな銀髪を手慣れた動作でかき上げてフッと笑う。

「我が家の庭園には色とりどりの美しい花々が咲いている。それを楽しみながら紅茶、というのもなかなか洒落たものじゃないか。」

「ふふふ、珍しい事もあるものですね。…で、本心は?」

「…やれやれ、せっかくもっともらしい事を言ったのだ。少しぐらいはに冗談付き合ってくれても良いだろう。」

「なーんだ、エリス姉さんの冗談かぁ。頭でも打ったのかと思ったわ。」

「ほんの少しの戯れだ、許せ。…まあ、これ以上隠す意味もないのだが。」

「で、何故ですか?エリスお姉さま。」

「今回、外でお茶会を開いた理由は…。」

ドゴォォオォオオオォォォン!!!!

「これだ。」

突如、屋敷の二階のバルコニーから業炎が噴き出す。
爆風で窓枠ごと飛んでいったガラスが地面に叩きつけられ、耳障りな甲高い音を立てて砕け散った。
それでも何事もなかったかのように続けられるお茶会。
三女は呆れた笑いを浮かべながら「ああ、またなの…。」と小さくつぶやいた。

「ふふふ、さて今日は何があったんでしょうか?」

次女が瞳を細めて、紅茶に口をつける。
それと同時にバルコニーから一人の男が投げ出されるような格好で外へと飛び出した。

「わ、ワシは悪くないぞ!!悪いのはお前なんだぞ、ブリギット!!ひ、ひぃぃっ!?」

捨て台詞さえも言わせぬように炎弾が男めがけて再び襲い掛かる。
その火勢に躊躇の二文字は見えない。
こう巨大な火球が空を飛び回っていては、せっかくの庭園の色鮮やかな風景も台無しだ。

「くぅっ!!…も、もうこんな家は知らぬっ、ワシは出て行くぞ!!う、うわぁああぁぁああぁっ!!!」

銀髪の男は服についたホコリをはらい、屋敷とは反対側の方向へ駆けていく。
端正な顔立ちを涙でグシャグシャに歪めながら…。
三女の口から渇いた笑いが漏れ出る。
長女はやれやれと眉間をおさえて、背もたれに寄りかかった。

「まあ、何と言えばいいのか…。いつも通り…としか言いようがないな。」

咲き誇る花々(と隕石のように降り注ぐ炎弾)のなか三姉妹の微笑が響き渡る。
こうして自分達が『自分達の日常』の中にいることを改めて実感するのであった。


     2


「で、環人。結局のところどうなんだ?」

「…は?」

俺の友人、桜場雪広が格闘ゲームの筐体から目を離さないまま俺にそう聞いてくる。
雪広がプレイしている隣でぼんやりと画面を眺めていた俺は、その脈絡も何もない質問に首を傾けた。

「何がだ?」

「とぼけんなよ。優華とリザノールちゃん、どっちが好きなんだ?」

「またその話かよ…。前にも話しただろう、今はどちらとも付き合う気はないって。」

「いや、それは聞いたけどよ。正直それじゃ納得できな…、あぁっ!!クソっ、負けちまった!!」

せわしなく動いていた両手をピタリと止めて、雪広は身体を俺のほうに向ける。
そして血涙を流すような表情で俺の肩を掴み揺さぶる雪広。
おいおい…、格ゲーの鬱憤を俺で晴らさないでくれ…。
視界が上下に振動したまま、顎がガクンガクン重力法則に従う。

「あぁ!?勝ち組気分ですか!?それともセレブ気分ですかっ!?あんなに可愛い子二人に言い寄られて!!俺だったら両方即ベッドインするぞっ!!まあどうせしてるんだろうけど!!」

「お前と一緒にするな!!その前にお前はその節操の無さをどうにかしろよ!!」

「クソッタレがぁっ!?どうしてなんだ、どうして俺じゃなくお前なんだ!?頼むから一人こちらに回してくださいよ畜生!!元カノにふられてからこっちは欲求不満なんだぞ!!!」

「知・る・か!!本心と下心、両方丸出しだからだろ!?それとも本心イコール下心か!?」

「男は股間で愛を語るんだ!!お願いします環人様、ご慈悲をぉっ!!」

涙ぐみながら雪広は俺にすがりつく。
タチの悪い酔っ払いのようでうっとうしい事この上ない。
自然とため息が口から漏れでた。
最近毎日のようにため息をついてるな、俺。
とりあえず恥ずかしいからこんな所で土下座しようとしないで
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