我が家のダメ吸血鬼。

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今日、友人と一緒に映画を見た。
その映画は妖艶なる夜の王、ヴァンパイアの話だ。
誇り高く広げる黒い翼、射抜くような視線を放つ紅い瞳。
スクリーンに映し出されるその威厳に満ちた姿は観客を全員魅了しただろう。
一緒に見た友人は帰り道に吸血鬼について熱く語っていた。
吸血鬼伝説のルーツである『串刺し公』ヴラド=ツェペシュの伝説、吸血鬼が出てくるマンガのストーリー。
本当に吸血鬼マニアだな、心の底からそう思ってしまう。
そして最後にこう言った。

「あぁ・・・、かっこいいなぁ・・・。もし、現実にいたらきっと映画のになんか負けないぐらいのかっこよさなんだろうなぁ・・・。」

うっとりする友人と別れ、俺は一人黙々と帰路につく。
最後の言葉を頭の中でエコーさせながら・・・。
偉大な夜の王、ねぇ・・・。
まだ6時だというのに秋空はすでに真っ暗だ。
陽が沈んでいる・・・。ということはアイツはもう起きているんだろう。
少し肌寒くなった街道を歩いているとやがて、自分の家が見えた。
カーテンが閉まっていて、その隙間から暖かな明かりがこぼれている。
やっぱり起きているのか・・・。
玄関の前で大きなため息を一度つき、ドアノブに手をかけた。

「・・・ただいま。」

「あ、おかえりワット。どこへ行っていたんだ?」

ダボッとしたスウェットを着た女性がコーヒーを片手に階段を上っていた。
肌は白く、金髪の典型的西洋美人。
寝癖がついているのはおそらく今までずっと布団の中にいたからだろう。
彼女の瞳はみずみずしい鬼灯(ほおずき)のように紅い。
風貌から察する通り、彼女は日本人ではない。
更に言えば、人間ですらない。

「友達と一緒に映画を見て来た。」

「そうだったのか。誰もいないから、少し睡眠をとろうと思ったが・・・。ふぁ、ふあぁ・・・。」

「随分大きいあくびだな。今まで寝てたんじゃなかったのか?」

「いいや、私は昼過ぎからずぅっと部屋でパソコンをやっていた。ふふん、期間限定アイテムフルコンプしたぞ。」

「・・・・・・何をやっているんだお前は。」

「ちょうどいい、夕食がそろそろだったな。じゃあ、リビングに行くとする。」

「おい、まだ食ってなかったのか!?」

「カップ麺もポテチも、昨日の残りでさえもないのだ。・・・それとも血でも冷蔵庫に入れといてくれたのか?」

「んな訳あるかぁっ!!」

俺は彼女の即頭部に手刀を一発、斜め45度の角度で叩き込む。
「ひゃうっ」という小さい悲鳴が聞こえた。

「な、なななな何をする!!痛いではないか!!」

「自分の飯くらい自分で用意しろ!!その調子だと昼も食べていないんだろ!?」

「昼間は太陽が出ているから仕方ないであろう!!」

「材料ぐらいは冷蔵庫に入ってる!!それで作れ!!」

「私には時間がないのだ!!」

「ネトゲーやってる時間を少しは料理にまわせ!!」

おそらく今までの会話で察している方も多いのではないか。
そう・・・、こいつは・・・。

「いい加減にしろ、ダメ吸血鬼!!!」

・・・吸血鬼なのだ。
彼女の名前はリザノール・エルミリア。家族や友人からはリザと呼ばれていたみたいだ。
生まれながらにして身分の高い貴族の名家で育った深窓の御令嬢・・・、らしい。ウチの親父がそう言っていた。
本人も「自分は魔界から来た」というなんともアレな発言をしている。
最初は何の冗談かと思ったさ。
彼女の背中に生えているコウモリの羽根がなければ、到底信じられない。
今はスウェットで隠れているが、背中のほうを見ると羽根の部分だけこんもりとしている。
そもそも何故俺の家に吸血鬼の貴族様がやって来たのかというと・・・。
ウチの親父は外務省の外交官をやっているのだ。
これがまたとんでもない場所の外交官。
親父の担当している国は・・・『魔界』。
信じられないだろう?
だけど事実なんだぜ、しかも国家機密級の。
リザはそこから親善大使として俺の家に派遣されたのだ。
だが、その実態は『偉大な夜の女王(笑)』。
正しい言葉にするならニートと言ったほうが正確かもしれない。
吸血鬼という種族だから、俺が大学へ行っている日中の時間はグースカ寝ている。
それで夜は何をやっているのかというと人のPCを占領し、毎夜ネトゲ三昧。
本人曰く『少しは名の知れたプレイヤー』だそうだ。

「わっ、私のことをダメ呼ばわりしたな!!この愚民が!!」

「愚かさで言えば、ネトゲ中毒の貴族様の足元にも及ばないがなっ!!」

「うるさいっ!!下僕は黙って夕食の準備をすればいいんだ!!」

「誰が下僕だっ!!」

習慣化してしまったレベルの低い罵りあいにため息しか出てこない俺。
ため息をつくと福が逃げるというが、それならば俺なんかもう
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