ユンと出会って一週間が経った。
「共に来るか?」と酔狂な問いを投げかけたのは、間違いなく私であり、彼女、ユンではない。私が住んでいるこの家に彼女を連れ込んだのも、間違いなく私だ……しかし、彼女は一体何なのだろうか?
いや、この疑問は愚問であった。彼女は魔女なのだ。それ以上でも、それ以下でもない。この国を害すると謳われている、力のある存在……の筈なのであるが……。
「えーっと、これはどうやって使うんだったけ?」
一糸纏わぬユンがシャワーの前で首を傾げている。その動きに合わせて、膝まである長い銀髪が揺れる。
暗闇の中で座り込んでいたためか、それとも私が暗対と言う見方しかしていなかった為かは分からないが、ユンの見た目はかなり幼かった。その長い銀髪とその存在そのもの以外は、何処にでもいる少女そのものだった。
「フェイー、これってどうやって使うんだっけ?」
とたとたと、私のところまで全裸で駈けてくるその姿は、とても危険性のあると言われる魔女には思えない。むしろ、年端も行かない少女……いや、それ以下だ。
「ここをこうやって捻るだけだ……」
私はユンにシャワーの使い方を教える。
私の鳩尾付近に取り付けられているバルブを開くと、町中の地下に張り巡らされた蒸気管で熱せられた地下水が流れ出ると言う仕組みだ。
しかし、彼女の背丈は私の胸までしかない。必然的にバルブが頭上を越えるのだ。そして、彼女はバルブを回すことすら出来ないほど非力だった。
「だって、固くて回らないんだもん」
頬を膨らませて、いじける彼女をゆっくりと見る。
彼女は一体今までどうやって生活してきたのだろうか。
ずっと定住も出来ず、追われ続ける生活をしてきたのだろうか。
魔女だって、両親はいる筈だ。その両親はどうしているのだろうか。
泡沫のようにポツリポツリと浮かぶ疑問は、尽きることがなかった。
「でも……ありがとう。フェイ」
思考の渦に耽っていた私の意識が、彼女の一言で表層へ上がる。
胸部よりも浮き出た肋骨。頭部以外全く発毛していない身体。薄く白すぎる肌。そんな彼女が無邪気に笑う。
つられて私も笑みが零れる。
こんな生活もアリだろう。彼女が魔女であろうと無かろうと関係ない。目の前の少女が無邪気に私に「ありがとう」と声を掛ける。そんな生活も悪くはないだろう。
しかし、そんな生活も長くは続かないのだろう。それは理解していた。私の心の中で確かにあった一抹の不安。
『彼女の存在は、この国では決して受け入れられない存在なのだ』と。
「ユン、おまえには家族はいないのか?」
シャワーを浴び終えたユンの頭を拭きながら私は、疑問の一つを尋ねることにした。
「んーん、いないよ。みんな死んじゃった」
仕方ないよ。と彼女は続ける。
こんな時代だ。魔女の親が生きているかも知れないと考える方が異常なのだ。名だけの宗教裁判に掛けられ、処刑される。尋ねた私が愚かだった。
私の表情を見て何か感じ取ったのか、ユンは慌てて「そうじゃないよ」と、私の思考を否定した。
「わたしの家族はみんな寿命で死んじゃったんだよ。だから、仕方ないよ。でも、きっとわたしの親はまだ幸せだったと思う。だって、ちゃんと寿命を迎えられたんだから」
屈託無く笑う彼女を、私は直視することが出来なかった。
「でもね、今の時代はきっと違う……わたしは今の王様は嫌い。ずっと前の王様のままだったらよかったのになぁ。アドルフ王はみんなに優しかったから」
前王政が倒れたのはおよそ50年前の話になる。この国を建国されたリーゼンベルト1世から、小国ながらも脈々と続いていた王政が、リーゼンベルト3世、つまり前王政最後の王、アドルフ王の代に終焉を迎えた。隣国から奇襲を受け、敗北したのだ。
それから、この地は隣国であるフェルラント領、リーシアとその名を変えたのだ。
「まだリーシア国だったときの方がよかった。みんな笑っていたしさ。でも、それはきっと贅沢なお願いなんだよね、多分」
ユンの瞳に影が差す。
私が生まれたときには、すでにこの国はフェルラント帝國、リーシアだった。
「ユン……おまえ一体幾つだ?」
「んーと、90歳? 91歳? 多分それくらいだよ?」
「……」
私は完全に言葉を失っていた。この目の前の少女が私よりも遙かに年上である事実もそうだが、明らかに年齢不相応な体躯と知識に愕然としていたのだ。
「あっ……驚いてる」
「当たり前だ! そのような言葉、信じられるか!」
シャワーの使い方すら知らない奴が何を言う。
「……わたしが魔女なのは残念だけど本当だよ。でも魔女にも何種類かあるんだよ。一番沢山いるのが魔女の血
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