怨敵に連なる少女(1) 新たなる邂逅

――【SIDE/凱&???】――

パーティーを終えた二日後――。

凱は義成からの再度の招きを受け、朝から東京へと出向いていた。
通常は瑞姫の背に乗っていくが、その瑞姫はエルノール、マルガレーテ、ロロティアの三人に従う形で王魔界に行かなければならず、同行出来ない状態だった。
このため、あまり慣れていない電車で東京へ向かう事となったのだが、そんな事情を人間社会が忖度するわけもなく、東京の朝の通勤電車はすし詰め状態の超満員。座席に座れるのは幸運な事だ。

椅子取りゲームの如き争奪戦を制した凱の隣には、茶色のランドセルを抱えた、ベレー帽を被った制服姿の少女が座っていた。
ランドセルには校章が刻まれており、それが凱に『南鳳学院』のものであると知らせるには、そう時間はかからなかった。
ふと互いに目が合うと、まるで時間が止まったかのような静寂が訪れたような錯覚が、互いの脳裏によぎる。

よく見れば、可愛らしい少女であった。
肩までで切り揃えられた姫カットの髪は艶やかの一言。
肌は白く、くりっとした大きな瞳が愛嬌の良さを引き立たせる。
だが、それでいながら、仕草の一つ一つは楚々として礼儀正しく、幼いながらも躾の行き届いた、《清廉(せいれん)》とした美しさを兼ね備えていて……と、世の中にはまだ、こんな可愛い女の子がいるのかと、凱は内心驚いた。

ランドセルを持っていることから小学生であるのは間違いないのだが、制服がこんなにも似合うのは瑞姫らヨメンバーズに匹敵すると凱は思ったくらいだ。
年相応に背は低く、女らしさはまだまだといったところだが、数年も経てば、誰もが放っておかないような美女に成長するのは間違いない、と確信させる……そんな美少女であった。

「なに考えてたんですか?」

少女は膝の上に抱えて持ったランドセルの上にちょこんと頬を押せ、凱の方を覗き込んで尋ねてくる。そんな仕草が不思議と可愛らしい。

「東京って、あんまり慣れないものだな、ってね」
「東京の人じゃないんですか?」
「うん……神奈川から通ってるよ」
「まあ」

本気で驚いた声を上げる少女だが、しかし、彼女の興味は別のところにあったらしい。

その光景は、《傍目(はため)》から見れば相当奇妙に見えたことだろう。
大人の男と小学生の少女が、《和気藹々(わきあいあい)》と電車の中で会話している……二人が一緒の駅から乗ってきたというなら、まだ近所付き合いのある関係かもしれないと想像できるだろう。
だが、二人は別々の駅から乗り込み、しかも空いているのが奇跡な時間帯の電車の中で合流し、いきなり雑談に興じているのだ。

実際、奇妙だった。
何せ二人は、未だに互いの名前すら知らない。
こうして話すようになったのも、つい一週間前からのことでしかないのだ。

こんな二人が出会ったきっかけは、ふとした偶然の産物だった。

*****

話はこの時から前の、瑞姫と杏咲が対談に臨んだ日にまで遡る。

源グループ本社へ向かう満員電車の中、制服姿の少女が近くで口を塞ぎながら何かに耐えていたを見かけてしまったのだ。ふと目が合えば、少女は顔を紅潮させながら、目を逸らしてうつむく。

(何かある――ならば、これだ!)

凱は何かあった時のため、バンテージの簡易版とも言うべき、細く長い布を両腕にそれぞれ巻いてある。
これは最近習得した《功夫(こうふ/要するにスキル)》の一つを使うためで、氣を布に伝え、蛇やロープのようにして操ったり、気で布を硬質化させて切り裂いたりするための、いわば触媒だ。

早速これを使う事になるとは思いもしなかった凱ではあるが、腕に巻いた布を慎重に解き放つと、布が少女の尻を撫でている不埒者の手首へ、獲物を狙う毒蛇の如く一気に巻き付き、これを締め上げる。

「ぎゃぁっ!」

不埒者が思わず声を上げれば、周囲が驚くのは当然であろう。
凱はその隙を逃さず、一気に布を引き、不埒者を容赦無く引き倒す。
不埒者の正体はスーツ姿の男だった。そこでタイミングよく駅に停まると、男は起き上がって一目散に逃げ出そうとしたが、通勤時間帯の混雑と、凱の布が手首に巻き付いている状態は叶わぬことであり、駆け出そうとして再度引き倒され、仰向けになりながら無様に転倒。
男は駆け付けた駅員と鉄道警察によって、敢え無く御用となった。
そうして事情聴取で数時間拘束され、少女も学校に連絡を入れたことで教員が迎えに来て、その日は終わった。

普通ならばそこでこの話はおしまいとなるものだが……どうやら少女は、かなり義理堅いというか、生真面目な性格だったらしい。
同じ電車に乗る機会があったというだけの関係だったが、その次の日、彼女は「昨日はありがとうございました」と礼を言ってきて……それからなし崩しに、互いに会う時、少女が次の電車に乗り換
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33