商店街再生事業が大成功の後の終了から、二週間後のこと――
「パーティー?」
「そ、商店街再生事業成功のお祝いも兼ねてるの。ガイさんも参加してみない?」
杏咲からの不意の提案に、小首を傾げる凱。
「……場違い、じゃないか?」
「そんなこと無いわ。ガイさんなら顔を出しておくべきよ」
「まあ……、キミが言うなら」
「うん。開催は明後日だから、スーツ用意してね」
こうして凱は杏咲に半ば言い包められるかのように、パーティーに出ることにしたのだ。
**********
パーティー当日――
杏咲に連れていかれる形で、凱はパーティー会場に来ていた。
また、万が一の事態に備え、人化の魔法でかつての姿に変装させた黄泉を護衛として連れてきていた。彼女はパンツスタイルのスーツに身を包み、「流石に裸足は不味い」との杏咲の助言で、爪先に鉄板が入った特注のパンプスを履いていた。
会場に着き、その豪華さに驚いた凱は思わず足が止めてしまう。
「……杏咲。やっぱり行かないと、ダメ、かな?」
「当たり前でしょ。ここまで来て、何を言ってるの?」
「おいおい、ビビったんかぁ?」
凱の言葉に呆れる、杏咲と黄泉。
凱も杏咲に手を引かれている状態だったが、その足取りは思いの外軽いものだった。
「あら、覚悟できちゃったんだ♪」
「ここで引き返したら、杏咲と黄泉が恥をかくと思っただけ。して、今日のパーティーって、何かあるの?」
「? 主に経済界の人達との顔合わせよ。大物議員も何人か来るみたいだけど」
「それって偉い人が多いってことだよね?」
「当然でしょ」
「……情けないけど緊張してきた」
「まぁ……オレもだな」
「二人ともこういう場は初めてだもの。仕方ないわ」
「絶対失礼な事しちまう……」
「……だな」
「大丈夫。源の婿がどれだけ失礼をしても大丈夫なの」
とは言っても、杏咲は組んだ腕を離そうともしないし、黄泉も凱の傍から離れる気が無い。
「それはそれで問題だろ」
「……ハゲドー」
黄泉が口にした「ハゲドー」は「激しく同意」を略したネットスラング「《禿同(はげどう)》」のこと。
いよいよもって腹を括った凱は、杏咲、黄泉の二人と共に会場入りした。
中に入ると、すでに多数の人が集まっており、談笑している者もいる。
「こんな世界もあるんだな」
「慣れたくねぇわぁ」
「まだ着いたばかりよ。二人とも今以上に堂々と、ね」
そこに――
「これはアズサさん、ますます御綺麗になられて。どうぞ、此方でお話ししましょう。あぁその前に、その薄汚い下民を捨ててきましょう。……おい下民ども、死にたくなければアズサさんから離れろ」
――若いがヒョロヒョロした印象の男が、杏咲に声をかけつつ、凱と黄泉に殺意を向ける。
「すみません。私は主人をエスコートしてますので御遠慮させてもらいますね」
杏咲がやんわり拒否すると、男が凱をあからさまに見下す目をしながら、言い放つ。
「ははは。まさかその下民を本当に婿に迎えるつもりなのですか? そんなことをしたら源の血が汚れてしまいますよ? 貴女の伴侶には、高貴な血の持ち主が似合うと思いませんか? 私のような、ね」
「それは我が源家に対する侮辱と受け取りますね。主人は既に家臣達の忠誠も得ている、立派な婿であり、父も私たちの関係を認めてます。それに源家は武家にございます。貴方のような武勇の欠片も無いような方など相手にするはずありませんわ」
「なっ! 今の時代に武勇などいらないだろ! それに今の御当主様も武勇に優れていないではないか!」
「お父様もそれゆえに苦労されたのです。でも、主人のお陰でそれも解決しましたわ」
男は凱と黄泉だけでなく、杏咲までをも苦々しく見る。
「ふん、ならば源グループが地に落ちるのも時間の問題だな。こんな奴隷が精々の非人が当主になるなどあってはならないこと。源グループも上手くいく筈がない。そこの護衛気取りの野蛮人もな」
「あぁん?」
「ご心配なく。主人らの活躍で売上が増大してますので」
二人が会話していくうちに、段々と蚊帳の外に置かれていく凱と黄泉が周りを見回すと、何者かが近付いてくる靴音がした。
「あ、あの……ガイくん、だよね……?」
「あん?」
声がした方向へ身構えつつ顔を向けると、一人の女が立っていた。
一見するとロングヘアーが良く似合う、儚い感じの美少女と言ってもいい外見だ。
だが、なぜこうして近寄って来るのか、凱にはさっぱり見当がつかなかった。
「『ガイ』とは、俺のことでしょうか?」
「え、えっと……竜宮、じゃなくて、龍堂凱くん、だよね?」
「確かに、龍堂凱は俺ですが……?」
どうやら凱のことを今の名まで知っているらしいが、肝心の凱はこの女について何も知らない。
「やっぱりそうなんだ……! あ
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