忌まわしい再会(1)/商店街の攻防

――【Side:笹川グループ】――

東京にある、笹川グループ本社営業部。
そこは全国からの精鋭が集う、日本有数の営業『部隊』。

その社員として新卒入社した《知里昭則(ちり・あきのり)》は、本社営業部を率いる部長である《桐嶋和利(きりしま・かずとし)》と話をしていた。

この知里という男、凱の中学時代の同級生で、凱いじめの中核メンバーの一人であった。中学卒業と共に進学のために東京へ移住し、さらには関東圏の有名私立大を卒業。そして現在、知里の中学時代からの盟友にして、凱の最大の怨敵の一角である笹川香織の口添えで、笹川グループの本社営業部に新卒入社したばかり。だが、その口の上手さと切り替えの早さで入社早々にも関わらず成績を上げていた。
そうして今回、桐島から特命を受けていたのだ。

「知里。神奈川再開発計画の進捗はどうだ? 当然、遅れは出ないと思っているが?」
「ええ、もちろんです、桐嶋部長。あんなボロボロの、それも風星学園周辺の寂れた商店街なんて、すぐ潰せますよ」
「よろしい。神奈川再開発計画は億単位の収益を見込めるプロジェクトだ。その手始めに風星学園の周囲を徹底的に潰し、風星を潰してあの広大な敷地を奪い取るのが総帥のお考えだ。商店街を潰して土地を確保した暁には、お前を主任、場合によっては係長に昇進させるよう話す。もし失敗したらどうなるか……解っているな?」
「大丈夫です、任せてください!」
「総帥令嬢の推薦で入っただけあると信じてるぞ」

知里は自信満々にそう答え、翌日には早速行動を開始するが、その行ないはまるっきり地上げそのもの。明らかにその筋の者を引き連れて脅しをかけるのは当然なのだが、ここで知里の悪癖が出ていた。
それは若くて可愛い女子がいれば、仕事そっちのけでナンパに走ることである。
これは桐嶋の秘かな懸念事項だが、結果を着実に出していることから現状は黙認状態。だが、今まで以上に自分勝手に動く有様なものだから、知里の担当地域である風星学園周辺の商店街はすっかり笹川グループ側に対する心証を悪くしてしまったのは言うまでもない。

そんな身勝手を一ヶ月も続けていた、ある日のこと。
知里は、同僚の女性社員からの報告を受けていた。

「知里。あなたの攻略先の例の商店街、なにか動きがあるみたいだけど?」
「はっ、商店街をあげて悪あがきってか? ま、むしろ、その悪あがきで資金食い潰して倒産が早まるだけだってのに……滑稽だねぇ」
「あっそ。私の担当じゃないから、どうでもいいけどね」

同僚女性は知里の能天気な返答に呆れながら、淡々と会話を打ち切る。
ゲーム感覚でじっくり甚振ろうと企む知里だが、この時、即座に対抗策を考えないどころか交渉もロクにせず、商店街を散歩しながら脅迫とナンパに勤しむ能天気さと慢心が、すべての機会を逃すこととなる。

もっとも、それが凱たちにとっては救いとなったのだが……。

*****

――【Side:凱&源グループ】――

話は遡り――

笹川グループが風星学園周辺の商店街への地上げ行為に動いたのを知った凱と源グループは、これに対抗すべく、商店街の再生に乗り出していた。
商店街潰しに動き出した者が知里であること、知里の言動と習性が変わっていないことを被害を受け始めた商店街の住民への聞き取り調査で確認した凱は、源グループを通じての対応に乗り出したのだ。

「若が風星学園近くにある商店街の再生事業に志願したとな?」
「はっ! 『自分では得られなかった地域の繋がりを消すわけにいかない』と申され、我がグループに動きを伝えた上で計画に乗り出したよしにございます」
「ならば、我等が支援して軌道に乗せるべきであろう。若の初の大仕事だ。しっかり連携し、余分な手間をかけさせてはならぬ。殿にはワシから伝えておく。すぐ対応と支援に移れ」
「はっ! 直ちに!」

会議がまったく開かれることなく、プランが凱の元に提示され、連携して遂行されることとなった。

後日――

「若が先日立ち上げた、商店街再生事業についての予算を請求いたします」
「その件、直ちに承認せよと殿からのお達しである。若の名に恥じぬような仕組みにいたせ」
「心得ております。若の御名を天下に広めたく思っております」
「ならば良し」

後から会議を開くものの、ただ承認されて終わるのみであった。

それから一ヶ月、知里がすっかり慢心したところを狙いすまし、かつ悟られないよう、再生計画が水面下で開始されたのだった。

*****

そこからさらに一ヶ月。

再生計画は信じられないくらい、あっという間に完了してしまう。

それは《偏(ひとえ)》に、源グループの手厚い支援のおかげであった。
凱の計画した商店街再生計画は、源グループの支援と、大企業ならではの幅広く緻密なリサーチに
[3]次へ
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33