春休みが明け、瑞姫の転校先での新学期がやってきた。
両親が既に仕事に動いている関係で、やはり凱が付き添いで学校に赴いていた。
凱は事前に義父の伝手でスーツを仕立てて貰っており、それを着用しての付き添いだ。
瑞姫は直射日光を避ける為に薄手のコートを羽織り、素足を晒さないように黒タイツも穿く念の入り様である。
二人は施設中央に建てられた塔に案内された後、その頂上にある理事長室に通され、対面を待つ。
その学園長室は部屋全体が丸く、要所に配置された窓は全周を見渡せる造りとなっている。
時刻は朝の七時。
部活の為に既に登校している生徒もいるにはいるが少数だ。
時間が遅く進む感覚にうんざりし始めた時、扉の開く音がして、ようやく目的の人物が姿を現す。
「いやいやどうも、お待たせして相済まんのじゃ」
立ち上がって挨拶しようとした二人は絶句する。
それは明らかに背が低い人の形をしたものだ。
けれどそれは明らかに背丈が低く、頭から山羊の角を生やした…幼女。
更にその手はぬいぐるみのようであり、膝から下は山羊の足と蹄であった。
「どうしたんじゃ? そんなに固くならんでもいいから、座るが良い」
促されて、ようやく座るものの、二人には入ってきた人物が何者か見当もつかなかった。
「お嬢さんがこの学校に転校してきた者かの?」
「は……はい。龍堂……瑞姫、です」
「うんうん、そなたがそうであったか。すると隣の殿方は身内と言う事で宜しいかのう?」
「そう受け取って頂いて結構です」
「宜しい。ようこそ、【風星(かざほし)学園】へ。わしがここの学園長、バフォメットのエルノールじゃ。バフォメットは聞いた事があるかのう?」
「サバトで祀られる山羊頭の大悪魔、と聞いた事があります」
「ほう、多少は知っておるようじゃな。じゃが我々のサバトはこの世界のとは全く違う、素晴らしいものじゃ。お主らも入らぬか?」
エルノールと名乗った学園長の言葉に、二人は顔を見合わせる。
「……内容を知らない事には判断出来ませんので……」
「わたしも……実際に見ない事には……」
逡巡しつつの返事に学園長は右手を顎につけながら、思案する。
「うぅむ……、それは尤もじゃな。今夜、わしのサバトで行われる黒ミサに招待するから、それを見て判断しても良かろう。放課後にまたここに来るのじゃ。良いな?」
「「はい」」
あからさまな勧誘なれど、見てからでいいという提案に凱も瑞姫も一応の了承をする。
だが、学園長と名乗ったバフォメット、エルノールの切り替えは早かった。
「さて、この学園じゃが――」
エルノールは色々と話をするが、説明を要約すると――
風星学園は共学である事。
中等部と高等部を併設している事。
女子生徒の約7割が魔物娘で占められている事。
部活動は強制では無いが多岐にわたる事。
学食や購買部も備えているが、弁当持参も可能である事。
更にそことは別にクラスが用意されている事。
――以上の六つであった。
彼女の長々とした説明に二人は少し、疲れ気味になってしまう。
説明が終わると同時に、まるでタイミングを計ったのように扉がノックされる。
「何じゃ、入れ」
「失礼するですよー。学園長、転校生が来られてると思うですがー……」
入って来たのは人間と全く変わらない姿の女性だった……のだが……。
「む? おお、そろそろ始業の時間じゃな。では龍堂君、この者がそちの担任じゃ。仲良くやりたまえよ」
「貴女が転校生ですかー? あたしが貴女の担任を務める鬼灯亜莉亜(ほおづき・ありあ)ですよ。よろしくですよー」
「よろ……しく、お願い、しま、す」
現われた女性は教師とはとても思えぬほど低身長であり、小学校高学年程度にしか見えなかった。
あまりのギャップにぎこちなくお辞儀をする瑞姫の姿に、鬼灯と名乗った教師はくすりと笑みを漏らす。
「さ、教室に案内するです。後について来るですよー」
「はい。お兄さん、それじゃ、後で」
「うん。頑張れよ」
名残惜しそうに義兄を見つめる瑞姫の姿に、凱も胸が苦しくなる思いではあった。
けれど、彼は社会人となった身であり、中学生である義妹との関係も分別をつけねばならないのが現実である。
〈ふむ、あの方からの手紙通りじゃのう〉
彼の背中を見つめながらニタリと笑うエルノールの姿を、凱は知る由も無い……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
瑞姫は長い廊下を歩いていた。
しかし、何やら嫌な予感を感じずには居られなかった。
それもその筈。
中等部では転校生の話で持ちきりだったのだ。
どのクラスに来るのか、可愛い女の子だったらいいな、など男子生徒が中心になって話をしていたからだ。
そして白髪と言う逃れられない特徴から、部活に出ていた中等部の男子が目ざとく見つけており、
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