この話は、まず過去に遡らなければならない。
それは凱が中学三年生の時の修学旅行――
彼は『独り』、学校にいた。
担任の女教師・《今井貞子(いまい・ていこ)》が警察と協力し、中学二年に起こされた凱の同級生への痴漢行為(ただし冤罪)の件を校長に相談。修学旅行への参加禁止を打診したのだ。校長は即座にこれを了承。あろうことか、学校新聞に一面に掲載させ、嘲笑と爆笑の渦に叩き込んだのだ。
当然、凱と父・隆哉はこれを不服として訴えるも、その行動に激怒した学校とPTA、さらには警察とそのとある警察一族が圧力をかけ、なす術も無いまま、正式に前科をつけられた上に賠償金を強制的に徴収されてしまった末、学校から『修学旅行と今後の学校行事への参加禁止。また、修学旅行の一週間全日を自習の上、日曜日も懲罰の名目での登校』の処分を、校長と被害者(?)家族からの大叱責と共に言い渡されたのだ。
「結局……こうなるのかよ……」
諦めの感情に支配されながら二日目の登校をする朝のこと――
「きゃぁぁぁーっ!」
少女の悲鳴が聞こえてきた。
周囲を見渡すと人影が数人見えた。
「こうなりゃ、やけくそだ!」
凱はすぐに飛び出し、悲鳴がした所へ向かった。
*****
「なぁ〜、いいかげんこのおれと、付き合いなよ。いい思いできるぜ」
「そうそう。塩田はとってもつえーんだぞ」
塩田と呼ばれた、小学生にしては肥満で大柄な少年が、少女にしつこく言い寄る。
もう一人は黙ってうんうんとうなずくだけ。
(ままよ!)
凱は塩田と呼ばれた小学生の背面を急襲した。
◇◇◇◇◇◇
結果から言えば、凱は惨敗した。
三人の少年にではなく、近所の者が呼んだ警察に叩きのめされたためだ。
しかも、警官たちは凱をパトカーに叩き込み、警察署で拷問紛いの憂さ晴らしを行なって放り出した。
息子を心配した隆哉が抗議をするも一瞬で封殺され、逆に公権力で逮捕するとまで脅される有様。病院は凱の名前を聞いた途端、冷淡な対応に切り替わって門前払いと散々なものだった。
しかし、それらは急に鳴りを潜めた。
隆哉が聞けた話では、凱が助けたのが「アズサ」と名乗った少女ということだけ。
間もなくして学校と笹川グループ、さらには夏目会に先手を打たれ、半年後には卒業式を強制欠席された上に父子共々町から追われ、社会的抹殺を受けたからだ。
凱と隆哉はその後、神奈川に流れ着く。
そして凱は、欠員が出た静鼎学園の補欠試験に受かり、さらなる地獄へ足を踏み入れてしまう事となる……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
時が少し経ち、凱が父と共に町を追われたのを知る由も無い少女は、それと入れ違う形で凱の家を探り当てた。
「《杏咲(あずさ)》、お見舞いに行くのに上機嫌だね」
「お父様……だって命の恩人に会いに行くのですよ♪」
彼女は凱の名と家を知り、会いに行くべく歩を進める。
「ふ〜ん、それだけかなぁ〜?」
「もう、お父様、何を言いたいのですか?」
「何でもないよ〜。僕としても、娘の為に命を掛けてくれたお礼をしないとね」
「そうですよ。変な事はしないでくださいね」
杏咲は父に連れられながら目的地に着いた――のだが……、それは「売家」「空家」の紙がこれ見よがしに貼られていた。
「え!? そんな、ことって……」
「おやぁ? ここにいた馬鹿二人に御用でしたかぁ?」
杏咲と呼ばれた少女の様子に、通りがかった老婆が笑顔で語る。
「あの馬鹿たれどもは笹川グループと警察、夏目会が町に働きかけてくれましてねぇ。奴らをみんなで叩き出してやりましたわぁ。いやぁ〜平和になりましたわぁ〜、ひょ〜っひょっひょっひょっ!」
晴れやかな笑顔で語った老婆は、醜い哄笑と共に歩を進めていった。
父娘は一連の出来事の裏で糸を引いていた首謀者こそ、後に笹川グループ総帥となる《笹川英雄(ささがわ・ひでお)》と、その一人娘にして凱の最大の怨敵の一人である《笹川香織(ささがわ・かおり)》であったのを、この少し後に知ることとなる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
二人は地元に帰り、当時の会長であった杏咲の祖父に協力を願い出て、即座に調査を行なったことで、凱が酷いいじめに遭っている最大の原因が笹川香織の一方的、かつ身勝手な嫌悪が起点と判った。
次期総帥の座が決まった英雄が権力を最大限に悪用し、町ぐるみ・組織ぐるみでの意図的かつ明確な悪意で町や組織を扇動していたのみならず、小学校・中学校で凱が冤罪をかけられ、中学の時には警察がそれを事実として捏造し、公権力で示談を結ばせたことを突き、夏目会も結託して町全体で村八分にして追放した――というのが事の真相だった。
「杏咲、凱くんにまた会いたいかい?」
予想だにしなかった悲惨な結果に、肩を落として落ち込む杏咲。
そんな娘に
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