【Side:凱&エルノール・サバト】
笹川キングホテル襲撃の直後――
凱およびヨメンバーズの一行はエルノール・サバトの本体から離れ、高層ビルの屋上に降り立った。
それは今回の協力者である名も知らぬハッカーに、最後の仕事を頼むためだ。
凱はハッカーに、ボイスレコーダーと超小型カメラで捉えた音声や映像のデータを渡したい旨をメールで知らせる。
少ししてハッカーからも「色を付けてもらえるなら」との返答を得て、「情報は鮮度が一番だからすぐに会いたい」と場所を指定されて落ち合うこととなった。
◇◇◇◇◇◇
急行した場所は、誰も使わなくなった、人気(ひとけ)の無い公園。
人通りが一切無く、一本だけ機能している街灯も電球が切れかけ、しかも明滅を繰り返しているために周囲がとても薄暗く、車どころか人も通らないことによって生まれる静寂が不気味さを醸し出している。
全員で背中を合わせながら身構える中、その薄暗い街灯の陰から声が響く。
『これはこれは、お早いことで』
そうして現れたのは、骸骨にバイザーをかぶせたかのようなサイバーパンク丸出しの奇怪なマスクで顔を隠した、凱よりやや低めの背丈をした人間だ。
マスクはドレッドヘアのような飾りが付いており、さらにはフェイスカバーによって後頭部が完全に覆われている。かなり大きめのポンチョと厚着で身体のラインを隠し、さらには厚手のグローブにミリタリーブーツという出で立ち。
声もリバーブがかかって少し不明瞭なことから、ボイスチェンジャーを仕込んでいるのは間違いなかった。
ここまでの念の入りようでは、正体どころか男女の別すら窺い知る事も出来ない。
「お前があのハッカーでいいのか?」
『ええ。あ、私はあなた方を知ってますよ。裏で有名になり始めてますから』
メールの時と比べて多少丁寧な口調に内心で戸惑いつつも、凱たちは忍ばせていたボイスレコーダーや超小型カメラをハッカーであろう人物に手渡すと、ハッカーは即座に小脇に抱えていたノートパソコンを開き、レコーダーとカメラの解析にかかる。
素早い手つきでキーボードを打ち込んで、10分もしないうちにすべての解析を終えていた。相当な性能を備えた特注のノートパソコンであることは疑う余地が無い。
ハッカーはボイスレコーダーや超小型カメラの数々を凱たちに返すと、こう言い放つ。
『なかなかいい情報ですね。これで飯の種が増えます。では、結果が出ましたらメールしますよ』
マスクの人物はそう言って、片手をひらひらさせながら足早に立ち去る。
残された凱たち一行は釈然としないモヤモヤを抱えながら、本隊が帰還しているであろうエルノール・サバトへと帰っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日からは少年少女たちを親元へ帰すための作業に追われた。
それと同時に、朝から新聞各社や報道機関、あらゆるメディアが賑わっていた。
かのハッカーが、凱たちの音声や画像・動画の記録を全メディアに送っていたのは間違いない。
―― 名門・静鼎学園の闇! 人身売買に強豪部と上層部が関与! 世界各国の要人を顧客にしていた! ――
こんな見出しが全国紙の一面を飾っているのだ。
静鼎学園高校のサッカー部、野球部、ラグビー部の部員全員が各部の顧問と監督らと結託し、生徒を人身売買にかける行為に関与し、これを学長や理事長が容認していた――という内容だ。
インターネット版には、その音声記録や画像も公開され、明らかに外国人であろう体格の者もいた。
各紙で様々な憶測が書かれていたものの、事件現場が笹川キングホテルであるということだけは共通していた。
そうして、過去に被害を受けた生徒の親族が、魔物娘の弁護士を通じて告訴の準備に入っていると書かれているところで記事が締め括られているのだ。
「……これで引くに引けない、か」
「当たり前じゃ。まあ、兄上は母校のみならず、大企業や警察、果てはヤクザにも狙われた。ま、遅かれ早かれじゃがな……」
凱のつぶやきにエルノールが答える。
どのみち狙われているのなら、一矢報いた方が後悔はないというもの。
激戦が避けられないところまで来た以上、覚悟を決めねばならないとの思いは凱のみならず、ヨメンバーズやエルノール・サバト全員の思いでもあるのだ。
とは言え、地下オークションの件どころか笹川キングホテルでの一件がテレビで放送されていないところを見ると、警察関係が情報規制という名の圧力をかけていることは間違いないだろう。場合によってはスポンサー企業の一角である笹川グループの関与もあるだろう。
エルノール・サバトが一丸となって身元を照合し、親元へ帰すのにそれほど日を要しなかったが、問題はそれでけではない。
それは、三門姉妹のような親を亡くしている者たちの処遇だ。
現状は
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