鷲津組粛清から一週間――
浜本美耶は、朝早くから東京の夏目会総本部を訪れていた。
現れた人物を目にした彼女は、慌てて礼をする。
「そう堅苦しくすんな。こんな朝早くから来たのは、オレに用があるからだろ?」
「はい。我が静鼎学園の手の者が、風星のゴミクズにしてやられました。プレゼントや地下オークションに送る奴隷を調達できず、誠に申し訳ございません」
異常事態を察していると言わんばかりの威厳のある声に、浜本は淡々と釈明する。
これに対し、夏目会総裁・夏目剛史は落ち着き払っている。
「で? オレ達に刃向かう生意気なカスどもの素性、分かってんのか?」
「……こちらに」
「っ! コイツらは!?」
浜本がそう言いながら差し出した封筒にあったのは、凱とエルノールに関する調査書である。夏目は忌々しげに眼を通すと、調査書を縦に思い切り引き裂き、叩きつけるように投げ捨てた。
「こんなゴミのクソにもなんねぇガキに負けたってぇのか、てめーらぁ!! エビにすっぞゴルァ!!」
「お恥ずかしい限りです……」
「まぁいい、ウチのもんとサツに話は通す。自由に使って構わん、必ず消せ! 野本のデブにも伝えろ、これで失敗したらタダじゃ置かねぇってな」
「ありがとうございます。では、私はこれで失礼いたします」
浜本が一礼して退出した後、入れ替わりで黒いスーツの男が入って来た。
「総裁、失礼します」
「何だ」
「はっ、笹川キングホテルの地下特設会場にて今夜開催する、地下オークションの参加者と商品のリストに御座います」
「ああ、できたのか。どれ……」
二つのリストに目を通したのを確認し、黒スーツの男は告げる。
「当夜は我が国の警察や各界の大物だけでなく、海外からもFIFA(国際サッカー連盟)やIBAF(国際野球連盟)を始めとした国際スポーツ連盟機構の役員やスター選手、ハリウッドスター、閣僚級の大物、各国の富豪や高級将校たちが参加を表明し、既に来日しております」
「いいぞいいぞぉ。人身売買こそ社会に潤いを与え、この夏目会に莫大な富をもたらす素晴らしいシステムだ。俺や組員どもの性欲を満足させるにもうってつけってもんよ。ふはははは」
「予定していた商品の数も質も、明誠(めいせい)学園大学の売春サークルが手頃な娘どもを寝取って誑(たら)し込んでくれただけでなく、静鼎の長沼らが経営する風俗店『リセクラブ』、リボードグループのお陰で揃えることが出来まして、商品もこれまで以上の粒揃いで御座います」
夏目は少年少女を性奴隷として売買する、地下オークションの日本での主宰でもあった。
暴力団としての顔を持つだけでなく、「人身売買は社会に潤いを与える」と言い切り、暴力のみならず地上げや脱法ドラッグ、性奴隷売買で財を成した、まさに海千山千の外道であった。
しかも、若く美しい女性が男の欲望に穢されていく様を見るのが最大の楽しみと公言するのだから恐れ入る。
夏目は、ふと思い出したかのように口を開く。
「が、愚かにもこれを否定する愚かな馬鹿野郎がいる。そいつらの始末はできてんだろうな?」
「はい。三門佑一朗とその妻を、心中を装って横浜港に沈めときました」
「三門? ああ、笹川んとこの生意気でウザいクソ野郎か、鬱陶しい正義ヅラぶら下げてやがったな。確か奴には高校生の可愛い姉妹がいたな」
「はい。今回の目玉商品として、最後に控えさせました。三門の遺産ですが、奴の親族が思いのほか欲深(よくぶか)で助かりました。連中は姉妹が邪魔だったらしく、遺産を根こそぎ奪い取った挙句、あっさりこちらに引き渡しました」
顛末を聞いた夏目は邪淫に満ちた、邪な笑みを浮かべる。
「ほう……これはこれは美しい。大儲けできるぞ。ふははははは!」
「どうやらサツや笹川のほうも三門を目の上の瘤と見ていたそうで、利害が一致したといったところでしょうか」
「そうか、それは結構なことだ。じゃぁ送迎の時間になったら呼べ」
「はっ、かしこまりました」
夏目は言うだけ言うと部下を下がらせ、悠々と椅子に座り直した。
「フン……平家ならぬ、夏目会にあらずんば人にあらず――だ」
しかし、その余裕が崩される事になろうとは、この時の彼が知る由も無かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
所変わって風星学園中央塔・地下作戦室――
浜本の動きと地下オークションの存在は、エルノール・サバトと魔王軍クノイチ部隊らの手によって把握出来ていた。
だが、それを行えたのは匿名で送られてくる謎のメールである。
そのメールによって夏目会、笹川商事、警察、そして静鼎学園の四つの組織が手を組んでいる事、開催の場所と日時が明らかとなり、メールを元に集めた情報を精査し、地下オークションの主宰者が夏目会総裁であることも突き止めている。
「よりもよって、夏目会の
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