【Side:???】
凱たちが学園に戻って少しした頃の、とあるビルの一室――
そこに置かれたソファーに寝転がって携帯ゲーム機をいじるライダースーツの女に、男が声をかける。
「姉御ぉー!」
「あぁ? うっせぇなぁ、今いいトコなんだからジャマすんな」
「そ、それが、隼人のヤツが――」
言うが早いか、女は携帯ゲーム機をソファーに放り投げ、男の胸ぐらを掴んで凄む。
「おいっ! 隼人のヤツがナニやってんだよ! 他んとこのシマに手ぇ出しやがったな!? あれほど言ったろうが、夏目会と笹川グループは昵懇(じっこん)なんだぞ。その二つのシマァ荒らしたらおしまいなんだよ、私ら――鷲津(わしづ)組そのものがな」
「いえ……それが……どうも違うみたいで……」
「?」
タイミングを計るように隼人が現れる。
その表情はかなり浮かない。
「おい……何があった、って、おい。お前、靴は?」
凱に捨てられた靴は結局見つけられず、靴下のまま帰ってきたのだ。
女は隼人を問い質すが、押し黙ったまま。
「……おいテメー、この私を、鷲津組組長・鷲津一未(わしづ・かずみ)と知ってて黙ってるんだな? あ? 仲野隼人(なかの・はやと)よぉ?」
鷲津一未と名乗った女は、そう言いながら凄む。
「……風星のドラゴンたちに、やられちまいました……」
「はぁ!? 何やったんだ、お前!?」
「……食ってやろうとした女の家にいて、俺にメシ出さなかったから脅してやっただけっす」
「たったそれだけぇ!?」
一未は絶句しつつも、何とか言葉を紡ぎ出す。
「……バカかテメーは」
「俺が食う女のところにいる奴が悪いっすよ」
「テメーなぁ……龍堂瑞姫は笹川グループがご所望なんだよ! それを何だ、わざわざ敵対する真似しやがって!」
「だ、だから、俺が食う女のところにいる奴が悪いし、俺にメシ出さねー奴が悪いんすよ」
あくまでも「俺は何も悪くない」と言い張って、悪びれもしない隼人の姿は非常識丸出しなチンピラそのものだ。その醜態ぶりに、一未は呆れる他ない。
「ったく……面倒なことになったぜ。これじゃ夏目会と笹川グループからお叱り食らうじゃねぇかよ」
「え? 何でっすか?」
刑事事件を複数起こして超底辺の高校を二か月で放校され、少年院行き。ギャンブル癖が酷く、女癖も物凄く悪い――これが仲野隼人という《類人猿(にんげん)》が持つすべてである。
一未のように女の身でありながら暴力団の頭を張るほどの度胸と才覚を、ギャンブルと肉欲しか追い求めないこの男が持ち合わせているはずもない。
結局、隼人は組員から殴られ蹴られで、ようやく自分の身に起こった事を話した。
十分足らずの出来事を話すのに一時間を要して、である。
「あーぁ。こりゃぁ、お叱り食らう前に私らでカタつけるしかねぇな」
一未は盛大にぼやき始める。
「うちはシノギ増やしたい、人も欲しいで大変だってのによ。この前のダンプだって、うちが用意したんだぞ。これで失敗したら隼人、責任は全部テメーに行くからな。覚えとけや」
少しの間無言になる室内。そこに組員の一人が口を開く。
「あの、本当にやるんすか?」
「あぁ、逆に考えりゃ、鷲津組を売り出せるチャンスだってことだ。伸るか反るかの大博打だがな」
一未は煙草に火をつけると、遠くを見ながら煙草を吹かし、そう呟く。
「標的は龍堂瑞姫、ついでに本宮ななみもだ。幸いうちには女ぶっ壊す専門がいるしな。それに明日は日曜。リボードグループ横浜の支社長と全店長が、夏目会総裁のお招きで東京競馬場に出向く日だ。いい機会じゃないか?」
それを聞いた男たちは息を飲むが、一未は構わず号令をかけた。
「標的が本宮ななみに接触したってなれば、こっちが手を出せば必ず標的は喰いつく。そこを一網打尽だ。今日はもう遅い、明日、日の出から本宮のマンションを張れ。出てきたらとっ捕まえて、こっちに連絡しろ。それまで休んで精力つけとけよ」
一未はななみのマンションへ、翌日早朝から数人で見張りに付くよう告げると、解散を命じる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【Side:凱&ヨメンバーズ】
特別寮に戻った凱は、残っていたヨメンバーズを自室に集め、今後の対策を協議していた。
利益のためなら手段を選ばず、わずかでもプライドを損なえば容赦なく仕返しをかけてくる、そんなヤクザのプライドの高さを警戒していたのだ。
そこに電話が鳴り響く。エルノール・サバトとの直通電話である。
電話の内容は「設置のパソコン内に匿名のメールが届き、夏目会の動きやその末端組織が女性の拉致に動く事をリークしてきた」というものである。
パソコンは人間界に住まう魔物娘であればある程度操作に慣れるが、順応性が最も早いのはグレムリンだ。
エルノール・サバトにはグレムリンが五
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