風星学園地下のエルノール・サバトでは、凱とヨメンバーズが懐かしい顔ぶれとの再会を果たしていた。
それは第零特殊部隊、通称ゼロの隊員たち。
彼女たちの話によると、デオノーラに命じられたアルトイーリスが人間界に派遣する隊員を選抜し、「龍堂凱を一日でも早くハイランド辺境伯領に赴任させよ」との王命の下、人間界へやって来たのだ。
ハイランド辺境伯叙任の際のデオノーラの言葉が現実となったのである。
ゼロの隊員たちにとって、瑞姫は妹も同然。
婚姻した事に多少の不平は漏らしたものの、彼女らは瑞姫の元気な姿にひと安心と言ったところだ。
リーダー格のドラゴン・ルキナが口を開く。
「さて、我らが来た意味、分かってるだろうな? ガイよ」
核心を突く言葉に、言葉を出せない凱。
それでも言わなければならないのが現実。
「ハイランド辺境伯として、一日でも早く赴任せよ――竜女王の言葉、でしょ?」
「その通り……と言いたいとこだけど、我らとて暴れたいのはあったんだよ、ははは」
そこかしこに苦笑が漏れる。
と、そこに遠声晶の唸る音がする。瑞姫のからだった。
「はい。うん……うん……。わたしに電話? 誰から? ……え? わかった、電話してみる」
手にして応答する瑞姫だったが、何を聞いたのだろうか、顔が真剣になる。
遠声晶を切った瑞姫は、全員に向けて声を出す。
「ごめんなさい、わたしあてに電話があったみたいで、これからすぐにかけなきゃいけなきゃいけないみたいです」
「でんわ……?」
通信連絡の手段を魔道具で賄える魔界では、電話という言葉は聞きなれないもの。
駆け出していった瑞姫に代わり、凱は人間界における電話について説明したものの、人間界に過ごした魔物娘でないゼロの者たちには今一つ理解してもらえなかった。
凱は仕方なく話題を変え、食文化を中心にした話をしてしていると、瑞姫が戻ってきた。
浮かない表情の瑞姫に、凱は優しく話しかける。
「どうしたんだ、瑞姫?」
「お兄さん、相談したいことがあるの……」
「……分かった。じゃあ、別の部屋で――」
念話を使えば済む話だが、それをここで行えば何をしているのかバレてしまうのが明らかだ。ゆえに、別の部屋で話を聞かれないようにとの意図をもって、瑞姫は凱を連れ出そうとしたのだ。
だが、ルキナを先頭にゼロの竜たちは身を乗り出す。
「『妹』が困っているのに、我らを除け者にするのは良くないな」
名目を付けて暴れようとする、彼女たちの意図が目に見えている。
屈強な竜の集団に気圧された瑞姫は、観念して事情を話す事にした。
彼女によると、電話を寄越してきたのは母・沙裕美で、彼女の先輩が自分の娘の事で相談したいと言い、その相手に瑞姫を指名してきたのだという。
明らかに年上の女性を相手にどうして瑞姫を指名したのか、彼女にも皆目見当がつかない。
「相手の事は聞いたかのう?」
「母の先輩で、白川友希(しらかわ・ゆき)って人です。その娘でななみさん、という人のことで相談したい、と。今は結婚して本宮(もとみや)ななみ、だそうです」
一同は首を傾げる。
瑞姫の母の先輩で、さらにその娘――明らかにつながりの無い関係の者に、どうして瑞姫を引き合わせる必要があるのか、と。
「瑞姫一人で行くのか?」
凱の問いかけに、瑞姫は頭(かぶり)を振る。
「わたし一人じゃ、きっと無理。お母さんも一人で行きなさいって言ってないし……」
「まずは……相手に聞いてみるしかないな」
瑞姫は特別クラスの寮に住む母から、相手の連絡先を聞いていた。
恐る恐る電話する瑞姫の手を、凱は優しく握り、ゆっくりうなずいて励ます。
そうして始まった電話は長々とした会話の後、日取りが決まったところで区切りとなる。
「随分と電話長いな」
「聞いてる限りだと話好きのおばさん、って感じだった。それで、できれば今すぐにでも話したいって言ってるの」
釈然としない気持ちを抱えたまま、瑞姫は凱を伴って白川友希が住むマンションへ赴く。
二人が対面した彼女は多少若作りしていて小ざっぱりとしており、年齢を経た女性とはとても思えない雰囲気を持っていた。
話を聞いた二人だったが、嫁いでいった娘・ななみが結婚三年目になる夫との関係に悩み始めており、三回目の結婚記念日が心配なのだという。最近は次女のちひろが夏目会傘下の組にいるチンピラにベタ惚れし、ななみの家へ一緒に押し掛けるようになったのだという。
凱は夫である本宮修一(もとみや・しゅういち)のことを訊いたのだが、何か引っかかるものを感じていた。
「電話しておくから、ななみの家にそのまま行って欲しい」と場所と部屋番号を言われて話を打ち切られ、ますます訳が分からなくなった二人は、エルノールとルキナの二人に応援を頼み、同行してもらう事になっ
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