【Side:凱&ヨメンバーズ】
凱はエルノールと相談した上で、エルノール・サバトの集会所に構成員となった者も含めた、すべての者を集めた。
特別顧問としての権限を使ったのである。
集会所と地下基地の全容と場所を知っていることだろうと思い、工作員を確実に抹殺すべきと内心では考えている。
だが、姿を変えて高等部に潜ってたなどと馬鹿正直に言うのは本末転倒であるし、抹殺と言っても命を奪えば魔物娘たちが黙っていない。
そんなもどかしい思いを胸に秘めつつも、エルノール・サバトに工作員が紛れ込んでいることを口実にしてしまおうと考え、まずは揺さぶりをかけるところから始めてみた。
「実はだな、このサバトに工作員が紛れ込んでるみたいなんだ」
「ちょっと、それ大丈夫なの!?」
「ピンチじゃありませんの!」
案の定、不安と驚きの混じったリアクションが、エルノール以外の者から返ってくる。集められた構成員の中には「そんなのいるわけないじゃないですか」と存在を否定する声もあった。
そのようなことを言うのは工作員本人、それも頭の悪い者しかいない。
しかし冷静な者も少しはいるようで、「誰だ?」と同調しながら、やり過ごそうとしている。
凱は指摘するのをあえてせず、冷静に話を続けた。
「……だが安心してくれ。ここ最近いなかったのは、その工作員が誰なのか調べてたからなんだ。そして、その工作員の情報はすべて、ここに入手済みだ」
凱がそう言って一冊のファイルを取り出す。
不安の声を上げていた者たちは「さすが特別顧問、ちゃんと考えていたんですね!」などの安堵と賞賛の声が多数返ってきた。
一方、工作員の存在を否定していた者は、すっかり黙り込んでしまっている。
分かり易過ぎるんだよ――と、凱は内心で嘲笑う。
「これから、このサバトに紛れている、アホでバカでクソな不届き者どもを一匹残らず駆除してやる。おら、ドジでマヌケでおふざけが過ぎたクソ工作員ども! 震えて待ってな!!」
侮辱同然の宣言の後、潜り込んでいた工作員の名を一人ずつ、フルネームで丁寧に読み上げていく。
名を呼ばれた者は次々と顔が怒りで赤黒くなったり蒼白になったりなどするも、拘束の魔法をかけられ、何も出来ずに連行されていく。
記した者の名をすべて読み上げ、改めて見てみると、最終的な人数は改変当初のエルノール・サバトと変わらなかった。
人数こそ減ってしまったが、工作員を入れたままでの被害を考えれば何億倍もマシというものだろう。
終わってみれば呆気ないものである。
「あたし、除名されるんじゃないかと思ってヒヤヒヤだったー」
「これでもう安心ですね」
「工作員が紛れ込んでるとか、全然気が付かなかったー」
「違和感を感じてたのは、こういうことだったんですね」
「気を付けてかなきゃ、だめだね」
凱は、残された構成員の安堵の声を聞いているうちに、「自分もまだまだ他人を見る目が無い」と呪うしかなった。
かくして、工作員たちは一人、また一人と亜莉亜が開発した新薬の実験台にされていった。
「うーん。やっぱり、これがいいですねぇー」
亜莉亜が対象者に使った様々な道具の使い勝手を精査・研究した結果、亜莉亜が選んだのは鍼灸(しんきゅう)治療で使う鍼(はり)と水鉄砲であった。
鍼は0.14〜0.34oもの細さを持ち、なおかつその先端が丸いため、通常の注射針や縫い針とは違って、刺した時の痛みをほとんど感じさせず、血も出させない。
「治験」と称されたこの実験は一週間をかけて精度を増し、新薬と以前の薬は遂に完成を見る。
そして彼女は新薬に【バニシングニードル「デスストーカー」】と名付け、以前の水鉄砲を用いた薬には被験者の証言から【催淫睡眠薬「ヒョウモンダコ」】と命名された。
デスストーカーとヒョウモンダコを受けた哀れな工作員は、治験による度重なる投与のせいか、記憶がエルノール・サバト入信前でまでで、なおかつ8本の触手に似たものしか残っていなかった。
その間に自白剤も投与し、性奴隷調達計画を聞き出して録音しておいたのは、ちょっとしたおまけである。
かくして、エルノール・サバトは潜り込んでいた工作員の排除が終わり、反撃に際する作戦会議や訓練に取り組む事が出来た。
だが、凱はそれで満足出来なかった。それはエルノールも同じだったようで、彼女は偵察要員も増やして関係する場所に放ち、情報を集めていた。
情報が勝負を制するからだ。
さらなる反撃態勢を整えるエルノール・サバトとは打って変わって、静鼎学園、夏目会、警察の雰囲気は殺伐としたものになっていた。
凱たちによって記憶を消されたのを知る由も無く、有益な情報を何一つ持ち帰れなかった、と言うよりは記憶があやふやな者たちは、その大半が粛清される破目になった。
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