逆怨みと医療サバトと禁断の力

明石数秀(あかし・かずひで)は刑事部捜査課・資料室管理係、通称・資管係で来る日も来る日も資料整理をしていた。
この係に左遷させられて以来、風星学園への復讐心を糧に仕事をこなしていたが、先の一ノ瀬兄弟と組んだ襲撃作戦は大失敗に終わる。
アリバイ工作で身分は守れたが、代償として貴重な手駒を失う破目になった。

さらには先任の警部が一か月前に定年で警察を去って、一人での勤務となっているのだが、人が来ないのをいいことに、今では空いた時間を大学時代の仲間や後輩らとの情報交換に費やしている。

そんな、ある日のこと――

「――クロードと連絡がつかないだと?」
『はい。『手頃な女見つけたから寝取ってくる』って出かけたっきりで……。家にも戻ってないそうで、両親が捜索願出したらしいッス』
「はぁ?」
『それと、桜井が高速で事故ったんス。正面衝突で車も大破だったとかで……。医者は重傷なのが奇跡って言ってたッス。一命は取り留めたんですが、顔が変形したそうで……』
「桜井? あぁ、女漁りの天才児と言われた桜井清二(さくらい・せいじ)か」
『仲間と遠征先からの帰り、かなりのスピードで突っ込んだらしいッス』
「らしいらしいってな。おめー、さっきから推測で物言ってんじゃねーよ!」
『こっちも聞いた話でしか分からないんスよ! クロードさんの両親にそのことで聞こうとしたら叩き出されるし、桜井は面会謝絶。これでどうやって聞くんスか!? それなら先輩がどうにかしてくださいよ! 先輩なら警察の力でいくらでも犯人を仕立て上げられるでしょ!』

この言葉に明石の怒りが瞬間沸騰する。

「そうしたくても出来ねぇのを知ってて言ってのかゴラァッ! 他頼る前に自分で探せやカス野郎がぁ!」
『ひぃぃ! す、すいません! すぐに、すぐにさがしますぅ!(ブツッ)』
「ええいクソッ! クソクソクソクソォォォォ!」

腹の底から吠えると、一人しかいない仕事場で怒りに任せながら机に何度も拳を叩き付ける。
そうして呻くように恨み節を吐き出す。

「見てろよ、風星のクズどもめ……。必ずのし上がって、徹底的に叩き潰してやるからな!」

そこにまた携帯の着信音が鳴る。だが、その液晶画面に映るのは、全く知らない電話番号だった。明石は恐る恐る電話に出る。

「も……、もしもし」
『明石数秀君で間違いないな?』
「――っ!? は……、はい」

重く威厳のある声が本人確認をしてくると、明石もたまらず返答する。
全く知らない人物からの突然の電話に、明石は混乱し始めていた。

『突然電話して済まんな。夏目会総裁と言えば、分かるな?』
「――っっ!!」
『明石君。報告書を読ませてもらったが、きみの大学での活躍は大変目覚ましい。女を弄び、馬鹿で弱い男から搾り取る……。そのふてぶてしさとずる賢さは、ヒラの警官としておくのは実に惜しい』
「あ、ありがとうございます」
『そこで提案だが……、きみをキャリア警官として復帰できるよう俺が掛け合ってやる。確か警部だったか? なに、こう見えて俺はサツにも顔利くんだよ。それに――俺はきみのような優秀な人材を貶めた不埒者を許せねぇんでな』
「優秀な人材、ですか?」
『優秀な人間ってぇのはな、犯罪を己の力として使いこなせる者だ。それを否定するバカなど、搾り取られるだけの奴隷で十分。まあ、俺もそのような馬鹿には虫唾が走るぜ』
「……同感です」
『それで、俺の提案は――』
「はい! 是非ともお願いいたします!」
『話が早くて助かるぜ。じゃあ早速手配してやる。色々と掛け合うから一か月は待て』
「ありがとうございます!」
『それと、明石君がそのようになった原因を排除しようじゃないか。協力するよ』
「はい! 是非とも!」

救いの手が来た――明石は心の底からそう感じた。
それから一か月後、明石は警察庁警備局警備企画課へ警部として赴任するという異例の人事が下り、警察内は騒然となるのだった。

彼は早速、かねてからの復讐計画を実行に移すべく、風星学園関係者の洗い出しを行い、そこで格好の標的を目にした。

「ハッハッハッハ、こんなとこにいやがったのかよ。早速始末するか。――おい、こいつを徹底的にマークして、一人になったら報せろ。追い込みかけてブチ殺す」

その書類に記されていた名は、龍堂凱だった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

それから一週間後。
凱は一人で買い物をした帰り、突然の襲撃を受けた。

複数の車が道を塞ぎながら、凱に向けて突進してきたのだ。
凱も逃げるものの、両手に大量の食材が入った買い物袋を持っていたのが災いし、思うように動きが取れない。そうしてすべての退路を塞がれ、最後に迫ってきた車に追突されたのである。
食品類を道や車にぶちまけながら道路に倒された凱は、罵声とともに降りてきた者たちに
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