話はエルノールが反撃を決意したのと時を同じくした頃に始まる――
*****
【瑞姫視点・一人称】
わたし――龍堂瑞姫は今、学園中等部の女の子と向き合ってる。
中等部から出てきた車椅子の女の子を、買い物途中で見かけたのがきっかけ。
魔物娘の姿って、わたしの場合はとっても目立つから、人化の魔法を使ってるんだけどね。
ボブカットをしたその子は体から発する気が弱くて、病弱なのかな、と感じた。
でも、それ以上に元気がなかった。
だからわたしは、思い切って話しかけてみることにした。
「こんにちは」
車椅子の子は驚いた目でこっちを見る。
口元をマスクで隠しているのは、やっぱり病原菌を入れないようにしたいのかな?
アルビノだったわたしも車椅子じゃないけど、外での運動はほとんどできなかったな……。
「あ……えっと、ごめんなさい。驚かせちゃったね」
車椅子の子は無言で首を横に何度か振っんだけど、周りに誰もいないみたいで、もう一つ思い切ったことを言ってみることにした。
「その、あなたの家まで、押してってあげるよ?」
彼女はまたも驚いた目でわたしを見た。
でも、それは明らかにおびえきってて、中等部の中で何があったのか不安に駆られてしまう。だけど、わたしはそれで引くわけにいかなかった。
どうしてなのかはわからない。
でも、これだけははっきりわかる。
――この子は、かつてのわたし。
理由なんて、それでいいのかもしれない。
お兄さんがわたしを助けてくれたのも、ほっとけなかったからって思ってるから。
「あ、ありがとうございます。その制服……、高等部のと、ちがい、ますね」
「これはね、特別クラスの制服なの。どこにいったらいいか、指定があったら教えてね」
わたしは聞かれたことを答えるだけにしようと考え、ほんとに最低限の、当たり障りのない会話を心がけようとした。
でも……、どうしてだろう?
心なしか、目の前の子は肩を震わせている。
車椅子を押しながら見ているから、この子の表情を知ることができない。
わたしとお兄さんは精神的なつながりがあるけど、それだけ。
他人の気持ちって、わからないのが普通だもの……。
いたたまれない気持ちがわたしの心にのしかかってくる。
「あの、ここで。迎えが来るんです」
車椅子の子が交差点に差し掛かったところで声をかけてきた。少し涙声がしたような気がしたけど、それを聞いちゃダメだね。
「せっかくこうして出会ったんだから、名乗らないとね。わたし、龍堂瑞姫っていうの」
わたしが名乗るのとほとんど同じくらいに、見慣れない大きな車がわたしたちの横に止まった。
思わず身構えてしまうけど、出てきたのは両親らしき人。
「どうもありがとうございます。さ、乗るわよ」
母親らしき人がそういうと、彼女の肩を借りて後部座席にゆっくりと乗った。
父親らしき人は車椅子をたたんで、車の荷台に乗せ、わたしに頭を下げた。
「あ! 待ってください!」
連絡先を教えてなかった……。
わたしは慌ててメモ帳を取りだして、特別寮の電話番号、それに自分の名前をふりがな付きで書き、そのページを破り取って父親らしき人に渡した。
「あの! これ、わたしの連絡先です。もし何かあったら、ここにかけてください……!」
「あ、はい。どうも」
そうするのが精一杯だったわたしは、女の子の名前を聞きそびれたまま、どこかへ走っていった車を見送るしかなかった――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それから三日目の朝、特別寮に電話が入った。それも登校時間に。
お兄さんが電話を取ったんだけど、相手はわたしを名指ししてるよって呼ばれた。
恐る恐る電話を取って答えてみる。
「はい……、お電話代わりました。龍堂です」
『すみません。どうかうちの娘を説得してくれませんか? その、昨日から、もう学校に行きたくないと泣いてまして……』
突然のお願いに、わたしは何が何やらわからなかった。
電話越しでもかなり慌ててる……というか、家の場所わからないのに……。
「す、すみません。いきなりいわれても、どなたの親御さんですか? それに、そちらの家の場所がわからないんですが……」
『あ、も、申し訳ありませんっ。広瀬と申します。娘は『みお』といいます。美しい桜と書いて『美桜(みお)』です。では、来ていただきたい場所を言いますね――』
そう言って、わたしは車椅子の子の名と指定された場所を書き留め、白髪と制服の紫ネクタイを目印にしてほしいって伝えた。
けど、『学校に行きたくない』って、いったい、美桜ちゃんに何があったんだろう?
悪い予感しかしない。
それでも放っておくわけにもいかないから、わたしは朱鷺子さんに電話での出来事を話した。
「うん……わかったよ。今日は欠席扱いにするから……行
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