這い上がる阿呆と堕ち行く阿呆・後編

ヤクザらしき追跡集団を何とか振り切った凱は、またしても自分を助けてくれた二人の女性に二度目の礼を取る。

「もう頭など下げんで良いぞ。兄上」
「へ?」

間抜けな声を出しながら、凱は顔を上げて女性達を見る。
二人はくすくすと笑いながら揃って指を鳴らすと、その姿が歪み、縮小していく。
二人の頭に角が生え、手足が人間のものではなくなる。

「ま、まさか――!」

歪みと縮小を終えた一人は服に埋もれ、もう一人はぶかぶかで動きづらそうにしている。

「瑞姫……、エル……」
「もごもご……、ぷっはぁ! いやぁ〜、ホストクラブっちゅうものは、まるっきり異世界じゃったな」
「わたしには気持ち悪いだけでしたけど」

女性達の正体はエルノールと瑞姫であった。

「な、何で……?」
「ああ、それはのう、豊化の魔法でわしと瑞姫の身体を変え、人化の魔法でさっきまでの姿に化けてたんじゃ」
「じゃあ、昼にいなくなったのは……」
「学園長にその魔法をかけてもらうのと、服を買いにいったからだよ」
「要はあのバカが、協力者を同行させたらどうのと抜かしとったからのう。わし等は無関係の第三者に化けて、お主をつけていた――と言う訳じゃよ」
「姉妹っていうのは、その場の思いつき♪」
「さあ、戻ろう。残った者達も心配してるであろうからな」

種明かしを終えたエルノールと瑞姫は凱の手を引きつつ、転移魔法で学園の特別寮に戻った。

*****

凱は特別寮のリビングに婚約者達を集め、瑞姫にも打ち明けていなかった母親の事も含め、子細を打ち明けた。

母親、姉と信じていた女達に虐待された末に捨てられた事――
その母親の本当の夫はホストであり、世間体と托卵の目的で父に近付き、偶然、凱を生んだ事――

彼のその冷淡な言葉の端々には怒り、憎しみ、悔しさ、怨みが込められていた。

察した婚約者達は、「それ以上話さなくていいから」と凱に寄り添い、負の感情を消す目的で全員による彼との夜伽を決めた。

その夜は外の漏れる事の無い、最下層の開かずの間のような一室で、王魔界とドラゴニアから取り寄せた香を同時に焚き、むせ返るような匂いの中、快楽に溺れる多数の淫声と淫音を部屋中に響かせた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

翌日、学園長室に電話が入った。
凱の元母・知加子が「凱を出せ」と尊大な口調で言って来たのだ。
やはり来たかと溜息をついた凱は、エルノールから受話器を受け取る。

「何ぞ用か、クソババア」
『グルァ、こんクソガキャァ! てめー、よくもうちの可愛い娘殴りやがったなぁ! クズの分際で何様だゴルァ! てめーは黙って有り金全部出しゃいいんだよ、ボンクラのクズが! てめーに金なんざもったいねえんだゴラァ! んなことも分からんか、こんクソボケがぁ! しかも、言うに事欠いてこのアタシをクソババアだぁ? てめーなんざ産みたくて産んだんじゃねーんだゴミが! とっとと金置いてゴミ処理場にいきやがれってんだよ、こんボンクラのクソガキャァ!』

曲がりなりにも腹を痛めて産んだ子供を悪し様にこき下ろし、堂々と金をむしり取ろうと渾身の罵声を浴びせ、屈服させようとする態度に凱の怒りが爆発した。

「うるせえクソババア! つまらん男と結婚したせいで不幸になっただと? ふざけんのも大概にしろや! テメェもテメェの家族も気持ち悪いんだよ! 二度と俺に近づくな! テメェが俺の父さんを十年以上も騙し、俺にしやがった数々の事は一生許さねえ! ホストなんて底辺クズチンピラの仕事してやがる生ゴミ野郎に股開く汚物の分際で、偉そうに母親面すんじゃねえ! テメェの緩くてヘドロ臭え股から出てきたのが俺の最大の不幸だ! 公衆便所の分際で俺に物をしゃべくるな! 越前だか便所虫だか知らねえが! たかがホストだろが! 産業廃棄物にもならんチンカスホストと一緒にとっとと死ねや、公衆便所っ!!」
『キイイイイッ! gjh$fi☆@1hw#io*e!!!!!』

金切り声を上げて叫ぶ元母を無視し、ガシィッ!と叩きつけるように受話器を置いた凱の表情は憤怒に染まっている。
瑞姫と朱鷺子が揃って傍に寄り添い、他の者達もそれに続く。

「みんな……、ありがとう。少し、一人にさせてくれ。頼む……」

瑞姫達にそう告げると、そそくさと地下基地最下層にある訓練室に入り、全武装を顕現させた。

憎しみのままに、怒りのままに――

リンドヴルムを振るう度、リンドヴルムと魔竜王の鎧衣が唸りを上げる。
母と姉の姿をした醜悪な怪物に憐憫の情は一つも湧かない。
そのまま惨めに朽ち果てる事を望みながら、ただひたすら振るい続けた。
近くには何も無く、ただただ空を斬るだけ。けれど気晴らしに他の命を奪い、破壊する事は人間と同じ。凱はそれだけは絶対に避けた。

自分は人間を超えた身、だからこ
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