鬼畜と夢精と決別と

瑞姫の一件からおよそ一週間後の平日夜10時過ぎ――

朱鷺子は凱や仲間達と共に、横浜港にある港湾倉庫の一角にやって来た。

*****

事の起こりは三日程前に遡る。

エルノール経由で、朱鷺子宛てに一通の手紙がもたらされた。
そこに書かれていたのは明らかな脅迫文であり、報復予告でもあった。

内容はこうだった。

―――――

よくもおれに臭い飯食わせてくれたな。
前科付けられたおかげで医師免許を取られてムショに送られ、やっと出てきた。
学校を卒業したそうだが、大人しく俺の物になるなら、今までの罪は許してやる。
もし男と一緒だったら、その男をぶっ殺す。
俺に失う物はない。
お前が犯した罪をよくよく考えた上で、横浜港の金沢木材埠頭第六倉庫に月曜の夜10時に一人でこい。
俺を満足させる答えをまってるぞ。

武史

―――――

逆怨み丸出しの文章だったが、これを読んだ朱鷺子の身体に激しい震えが襲いかかる。

「武史(たけし)叔父さんだ……! あいつが……出てきたんだ! ……あいつが……あいつが……」
「朱鷺子っ!」
「――っっ!?」

凱は恐慌状態に陥った朱鷺子を抱き寄せ、言い聞かせる。

「余程のトラウマを植え付けた奴なんだろ? だが、心配なんて要らない。みんながいるんだぞ!」
「みんな、が……?」
「そうだ。俺達は仲間、そして一生を共にする家族。違うか?」
「ううん、ボクらは……家族。ガイや瑞姫ちゃん、先生、レーテ、学園長。みんな……、みんな、家族だよ!」
「それでいい。自業自得すら分からん奴には天誅喰らわすだけだ」

朱鷺子の身体の震えは少しずつ鎮まっていく。
凱は闘志を漲らせるが、そこにエルノールが水を差す。

「張り切るのは良いがのう。面が割れたら、わしらは動けなくなるんじゃぞ。ましてや警察が動けばお仕舞じゃ」
「だからって一人で行かせる訳にもいかんだろ」
「分かっておる。じゃから、わし等は当日、顔を隠して後に続くんじゃ。その為の装備をうちの者に作らせよう」
「それじゃぁ、あたしはー、ちょっとやってみたいものがあるですよー」

エルノールは計画に必要な装備を作らせるよう構成員に通達し、亜莉亜は自室に篭って出てこなくなった。
亜莉亜の行動に疑問を抱く六人だったが、その理由は作戦決行の直前に明かされる事になる。

*****

同日の夜。
凱は特別寮の自室に朱鷺子を呼び、彼女に一つの質問をした。

それは朱鷺子の背に刻まれた、X字の火傷と切り傷が合わさった傷跡につてであった。
これまで彼女と行為に及んだ時も別段気に留めていなかった――無頓着とも言う――が、過去に関係していると思い、これまで訊いていなかったのである。
朱鷺子は内心で呆れつつも、ぽつぽつと語り出した。

テロ組織の支援で一年の内、一週間に満たない程度しか家にいないワーカホリックな父。
テロリストとして同じく滅多に帰らず、帰って来ても僅かな事で怒り狂う、癇癪持ちのヒステリックな母。

そんな親の元で育った朱鷺子は、母親を殊の他嫌っている。

理由は彼女が五歳の時にまで遡る。
娘に声をかけられてブチ切れた母親が、朱鷺子の背中をガスコンロ、それも熱されていた五徳(鍋やフライパンを置く為の金属製の枠)へ押し付けたのだ。
このせいで背中にX字の巨大な火傷を受け、その跡が消えずに残ってしまっているのだ。
その傷も人虎へと魔物化してからは少しずつ消えてはいるのだが、完全ではない。

だが、この傷はそれだけではなかった。
火傷を消えなくした最大の原因は叔父の武史にあった。

背中に負った大火傷の治療の為、当時開業医だった武史の診療所に預けられてから退院するまでの間、彼は朱鷺子に対して過剰なスキンシップを行っていた。
診療所の看護師はこれを気にかけていても、朱鷺子自身が無知であった故に公に出なかったのだ。
しかも武史は絶妙な「アメと鞭」を使いこなし、優しく励まして自分を信用させながら、自分の下に出来るだけ長く朱鷺子を置いておく為だけに、香辛料を混ぜただけのクリームを「強い薬」と偽って患部に塗り込んで火傷の治癒を遅らせたばかりか、「後で形が残りにくくする為」と偽って、塞がりかけていた火傷の傷口を刃物で抉って深刻化させる等、己の欲望と劣情のまま、治療と称した残虐行為を次第にエスカレートさせていった。

しかもこれと似たような行為を、診療に来た少年少女に行っていたのだから性質が悪い。

そうして二年もの間、繰り返し続けた挙句、欲望と劣情が限界に達した武史は、朱鷺子が幼い故に性への無知も利用し、遂には深夜に夜這いをかけた。
だが、朱鷺子は思わぬ幸運に助けられる。
眠る朱鷺子へ謝罪を兼ねた見舞いの為、無断で忍び込んで来ていた母に見つかり、事無きを得たのだ。
ところが、逆にこの事が武史の執
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