情報収集により、瑞姫を諦めない自称婚約者達を各個撃破していくエルノール・サバトであったが、厄介な存在が一人だけ、それも風星学園の生徒にいた。
名を前田清人(まえだ・きよと)。
高等部一年在籍の帰宅部でありながら、童顔がもたらす甘い顔立ちにファンクラブも出来ており、特に上級生からの人気が高い。だが、本人は瑞姫が理想のタイプであるらしく、好意故に幼少の頃から瑞姫をいじめていた主犯格だった。
「好きだからいじめる」という、何とも悪質かつ幼稚な発想だ。
おまけに初恋らしい。
厄介たらしめているのは彼の親族関係にあった。
清人は高等部の国語教師の一人・工藤わかなの大叔父の孫なのである。
わかなとは「はとこ」の関係にあり、その大伯父もかなりの資産家で学園に寄付金も出しており、孫である清人は親と共に悠々自適に過ごしていた。
この少年が両親と大叔父(=清人の祖父)、わかなとその婚約者のバックアップを受けて、頑強に抵抗していたのだ。
情報が出揃ったはいいが、迂闊に手を出せないとエルノールが悩んでいたところに、わかなが直訴にやって来た。その内容は「龍堂瑞姫と面会したい。その時に引き合わせたい者がいる」というもの。
これにエルノールは「相手に親御がいる以上、こちらだけで勝手な判断は出来ん」と返答した上で、瑞姫の両親に日程を打診・調整した結果、翌週水曜日の夕方以降と決定。
エルノールは瑞姫にもこの旨を報せ、凱にはその為にも自分と共に見届け人となるよう指示した。
そうして警戒はしつつも、一応の平和な一週間が経過していく――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
日は流れて面会前日の夜。
夕食を終え、就寝の準備に入っていた龍堂家では、瑞姫の父・信隆と母・紗裕美が凱と瑞姫を居間に呼び出した。
「……座りなさい」
信隆に言われるがまま、二人が椅子に座すと、これを確認した父が話を始める。
「明日の事で、お前たちに話しておかなければならん。これは父さんたちの過去も関係している。すまんが、まずは下らん昔話に付き合ってくれ」
そうして話し出した内容はこうだ。
*****
以前、凱と瑞姫が知らない間に、父方の元親族、瑞姫にとっては従兄にあたる男とその恋人から、「瑞姫は相応しい相手と付き合うべき」と抗議を受けた事があった。
男は「間抜けで情けないいじめられっ子」、男の婚約者は「根暗で馬鹿で情けないだけのいじめられっ子」と凱をあからさまに見下しきっており、「すぐに叩き出してホームレスにでもしてやるべき」と、とにかく凱を邪魔者と断じたのである。
これに怒った紗裕美が「何も知らんガキが偉そうに口出すな!」と二人を叱りつけたのだが、これに怒った者がもう一人いた。
男の母親にして信隆の「元」姉、名を梶原雅美(かじわら・まさみ)。
「結婚したら妻は家庭に入り、夫を全力で支えるもの」との信条を持つこの女は、結婚するや教師をあっさりと辞め、婚約者や彼女へのチェックが異様に厳しく、嫁になる女に仕事を辞めるよう強要して、親族の数組のカップルを破局・破談に追い込んだ前科を持つ、とんでもない女だった。
それでも離婚されないのは次男とはいえ、旧家の豪農本家に嫁いだ為であり、率先して専業主婦となった姿勢を本家の当主に気に入られ、手が出せない状態なのだ。
しかも信隆とは極めて仲が悪く、紗裕美を一方的に嫌い、口汚く罵った。信隆の両親までも婚約者をコケにし始め、遂に本気でキレた信隆は「元」家族との絶縁に加え、紗裕美の家である龍堂家への婿入りを宣言。
「元」家族からは親不孝者・裏切者と罵られたが、信隆は他の親族と遺産相続にまつわる醜い争いの末に闇討ち同然で金を分捕った家族達の過去を持ち出し、姉贔屓の両親を逆に罵った。
紗裕美も止めとばかりに、怒り狂う雅美へ「猿は山に帰って吠えてろ」と吐き捨てた事で信隆と「元」家族の溝は決定的なものとなる。
「今すぐ出てけ! 二度とここの敷居を跨ぐな! 一歩でも入ったら殺すからな!」
雅美贔屓の両親は狂ったかのように激怒し、信隆に怒鳴りつけながら、こうして勘当を言い渡したのだった。
因みにその時の信隆は「やっと、この粗大ゴミの家から解放された」と思わず安堵してしまった。
そうして意気揚々と信隆は紗裕美と共に龍堂家に赴き、婿入り宣言。
すんなり許されはしたものの、サプライズも甚だしい報告に紗裕美以外の龍堂家親族は喜ぶべきか叱るべきかと大変困惑したのは、今では良い思い出話になっているという。
*****
そんな余りにも長い前置きの末、語られたのは、その元姉の息子・梶原雅広(かじわら・まさひろ)と彼の恋人で現在は婚約者の工藤わかなの存在。
その二人の名を聞いた瑞姫は、思わず身体を強張らせる。
瑞姫はその二人と一応の面識がある。だが、この時の彼女は、わか
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録