凱と瑞姫の野外訓練も早いもので折り返しの四日目に入り、朱鷺子の不安は的中する。
ドラゴニア竜騎士団本部に竜騎士団員と騎士団学校の訓練生から選抜された四組が集められたのは前日の夜。彼らは人相書きを渡された上で二手に分けられていた。
第一陣の二組は早朝に出発して威力偵察と奇襲を仕掛け、続く第二陣の二組で休息の暇を与えずに自分達の有利な戦場へ追い込み、共に空陸両面で徹底的に潰すという算段だ。
嘆きの渓谷で潰せればそれで良し、万が一出来なくても帰路につく二人を妨害して期限までに帰らせず、試練を不合格にさせる計画だった。
反対勢力は何が何でも凱と瑞姫を竜騎士にさせまいと躍起になっており、皮肉にもそれが団をまとめる最大の要素だったからだ。
「第一陣、出撃! 第二陣、第一種戦闘態勢のまま待機!」
威力偵察及び奇襲を行う第一陣の二組が夜も明け切らぬ早朝から出撃した。
第一空挺部隊と第五陸上部隊から選抜されたワイバーンとワームによる空陸同時展開である。
仮に片方が攻撃を受けても後続の竜騎士達に報せる事が出来るし、天地に挟まれては如何に地上の王者と呼ばれるドラゴンと言えども対応は出来ないと踏んでいたのである。
第二陣に選ばれたのは、いずれも訓練生の中から選ばれた最も優秀なドラゴンとワイバーンにそれぞれのパートナーであった。凱に勝利する事が条件で今後の取得科目を免除される、との言葉に彼ら彼女らは俄然やる気を漲らせている。
今回の選抜隊の指揮を執っているのはバイゼア・ザルミュロイ。
第13特務工作隊を率いるワイバーンで、愚連隊上がりの叩き上げである。
一気呵成の猛攻と標的をじわじわ甚振る陰湿さを使い分ける、愚連隊ならではの戦法で凱と瑞姫をドラゴニアから叩き出そうと目論んでいた。
本来なら竜騎士団長であるアルトイーリスが指揮を執るべきところなのだが、そのアルトイーリスが凱擁護派に回っている為、その考えが間違いである事を証明すべく志願し、指揮権を委ねられたのだ。
余談ではあるがバイゼアには元々姓が無く、ザルミュロイは伴侶の姓である。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
凱と瑞姫の方も四日目の朝を迎え、手探りながらも迎撃態勢を思案していた。
二人も第零特殊部隊でドラゴンに関する知識を多少なりとも肌で感じ取っているものの、それはあくまでも騎士団内での訓練の話であり、一対多の戦いになる事は容易に想像出来た。
「一人ずつ送る程、奴らは馬鹿じゃない」と凱が疑わなかったのだ。
彼のこの異常な猜疑心は時間の経過と共に現実になるのだが……。
いつ何処から来るか分からない以上、出来る限り動かずに相手の出方を見るしかない。
無闇に魔力を使って気取られる訳にもいかず、地下神殿と洞窟を介して敵の動きを探り、迎撃する事で二人は同意した。
その時、地面が微かに揺れるのを感じた二人は地面に手を付けて心を無にする。
揺れは次第に大きくなり、止まったり、また揺れたりを繰り返す。
「この揺れ……、ワーム?」
「間違いないな。そうなるとドラゴンかワイバーンが組んでる可能性もある。偵察に出るべきだな」
「後手に回ったらまずいよ……」
「瑞姫の言いたい事は分かる。だが、敵の動きも編成も分からん今は、迎撃をし易くしておくのも大事だ。奴らは俺達を狩りに来た。だったら、奴らが狩られる側だと思い知らせなきゃならん」
瑞姫は凱の言葉に頷いた瞬間、何かを思い出したのか、はっとした表情で切り返す。
「だったら、学園長からもらったアレを使う時じゃ……!」
瑞姫の提案は遠声晶の片方を何処かに仕掛けて、声を拾って動向を探るというもの。
当然ながら「言うは易し、行うに難し」な手段である。
相手が何処を通るかも分からないし、下手な所に置けば自分達が近くにいると勘繰られる。
そこで凱は自ら偵察を買って出て、改造マントに葉や小枝、苔を貼り付けてギリースーツにし、草の多い所を選んで少しずつ移動していた。
その間に瑞姫は下の洞窟から川への出入り口付近に出て、双眼鏡を使いつつ、こっそりと敵の動きを探っていた。
双眼鏡に写り込んだのはぐるぐると鳶のように旋回して飛び回るワイバーン。
標的の出方を伺っているようだが、どうやら下を見ないでいる姿勢で飛んでいる事から、地上をワームに任せているか、完全に凱達を舐めているか、あるいはその両方だろう。
「せめて乗り手だけでも見えれば……」
瑞姫が忌々しく呟くと地鳴りが大きくなったのを足で感じ、素早く洞窟の中に逃げ込む。
吹き付ける強風と高低差のせいでこれ以上外の様子を窺い知る事は出来ないが、何かをしようとしていると考えた瑞姫は、慎重になりながらも様子を窺う事にし、遠声晶を取り出して起動させた。
―――――
時を同じくして、第一陣で先行していたワームとその騎士は嘆きの渓
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