最終訓練2:野外生活と朽ちた地下神殿

準備を終えた凱と瑞姫は、朱鷺子とフロゥの見送りを受けながら嘆きの渓谷へと出発した。

飛行訓練を兼ねた移動では早速、騎竜術が役立った。
先人の知恵を齧った程度とはいえ、以前とは違う乗り心地と互いの意思疎通のし易さを実感出来ていたのだ。だが、瑞姫を離さんとする凱の粘り腰が瑞姫の体に己の陰部を密着させ、瑞姫は愛する婚約者の陰部を感じて無意識に魔力を繋げている事をこの時の二人は気付けていなかった。

互いの変化に気付きもしない二人は僅か一時間で嘆きの渓谷に到着するも、渓谷からの洗礼を早速受けていた。谷間から常に吹き付ける強風は頑丈に作ってある吊り橋を揺らし、集中を乱すと風で振り落とされかねない程の強さで、その風は谷間を通って慟哭のように聞こえてくる。
まばらな木々に自然に出来たいくつかの洞窟、谷間を走る激しい川。
まともな準備をしないまま出ていたら食料調達が厳しいであろう環境である事は一目瞭然だった。

「必ず、俺達は這い上がる」
「負けたくない。大好きなお兄さんのためにも」

一番大きな洞窟に入った二人は手を取り合いながら決意を新たにすると、竜翼双伝に記された文章を元に飛行訓練に入った。風の被害が少ない場所からひたすらに練習し、互いの精神的なリンクにも助けられ、瑞姫は凱を振り落とさなくなった。だがそれで半日が終わってしまう。
半日分の保存食を食べた二人は、夜に食べる分の食料を現地調達する為、飛行訓練も兼ねて周辺の捜索を始める。ワームのように木の周辺を見渡せる訳ではないので、出来得る限り低空、そして飛行速度を落とす事に努めた。

そうして日が落ち始めた辺りにようやく虜の果実が実っている樹を見つけ、五個ずつ採取して洞窟に戻る
頃には辺りは真っ暗闇になっていた。
凱は照明石に魔力を注いで明かりを確保し、採取した虜の果実を一個だけ食べる。
瑞姫もそれに倣って虜の果実を一個だけ食べ、凱の隣に寄り添う。

「……お兄さん」
「ん?」
「わたし、ドラゴンになってよかったって、思ってる」

突然の瑞姫の言葉に若干動揺する凱だったが、瑞姫の目を見ながら言葉を返す。

「瑞姫が生きていてくれてるだけで、俺は嬉しい。ドラゴンってのは予想外だったけど、それでも今は瑞姫の言う通りかもしれないな」
「本当は、わたし一人だけをお嫁さんにして欲しかった。でもね、お兄さんは魔物娘を惹き付ける何かを備えてしまった気がするの……。わたしの……せいなのかな……?」
「なるようになるしかない。瑞姫がいてくれるから、今があるんだ」
「うん……」
「今日は早いけど寝るか。この暗さじゃ何も出来そうにないし、せめて入口にトラップ仕掛けるか」

凱は明かりを頼りにしながら爆裂石に魔力を注ぎ、洞窟の入口に埋め込む。
そうして瑞姫の傍に戻ると、今度は毛布を二枚取り出す。一枚を地面に敷き、もう一枚を被る形だ。

「さあ、これで良いよ」
「どうやって寝るの?」
「俺が下になって、俺の上に瑞姫が乗る。そうすれば少しは毛布をゆったりと使える筈さ」
「きゃん!」

凱の言葉に、瑞姫が悲鳴を上げながら顔を覆う。つまり抱きあって寝ると直感したのだ。

「おいおい、何もセックスする訳じゃないぞ?」
「え? 本当?」
「一週間もこの地域で過ごさなきゃならないんだ。食料と資材は限られてるし、体力も無闇に浪費出来ないんじゃセックスは無謀だぞ」
「それは……そうだけど……」
「とにかく今は寝よう。体力を温存させないと」
「……わかった」

互いに折り重なって毛布に包まれて就寝しようとするが、瑞姫が凱の耳元で囁く。

「お兄さん。今夜は……こうさせて」
「――っ!」

脳髄と下半身にぞくりと、それでいて甘美な刺激が襲い来る。
瑞姫はそれに構う事無く、愛おしい婚約者の耳元で耳打ちするかのように囁き続ける。

「大好きなお兄さん
hearts; ほら。わたしのお腹に、お兄さんのが、大きくなって、当たってる♪ うふふ
hearts;」

くすくすと囁くように笑う瑞姫の声は凱の心を欲情させるかように甘く、なおかつそっと耳たぶをちろちろと舐め回している。

「ちゃんと……わたしを……あっためてね
hearts;」

この瞬間、二人は互いをきつく抱きしめあい、互いの体温を共有し合いながら眠りに就いていく――

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

翌日。
二人はゆっくりと目覚め、身体を起こす。
相も変わらず谷間からの強風は哭くように響き渡り、遠くから黒雲が垂れ込み始めている。
程無く雨になるだろうとは容易に判断出来た。
よって、二人は食料と水の確保を優先し、その行程を飛行訓練と騎乗での槍術訓練に利用する事で意見が一致した。
入り口に埋めていた爆裂石の魔力を解除して回収し、万が一の為に印も打って行動を開始する。

食料と水の調達にはそれほ
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