凱の手中となった武具の情報はデオノーラの耳にも否応なく入って来ていた。
太古の呪具に選ばれてしまった者がどうなるのかは、今の魔物娘の時代となってからは分からない。
カースドソードやリビングアーマーとなる例は近年になって多く報告されているが、かの大魔界勇者ウィルマリナの持つ魔剣オルフィーユのように強大な力を持ちながらも武具としての姿を保っている例もあり、リンドヴルムと魔竜王の鎧衣という存在は謎を深めるばかりだった。
そこへもって第一空挺部隊や第五陸上部隊の主だった団員達から、凱の竜騎士叙任を反対する動きが高まっていた。殆どが凱の処遇を妬んだ訓練生達による署名運動だったが、中には凱の事を気に入らない竜騎士団員も出る始末で、ドラゴニア竜騎士団は不協和音に包まれつつあった。
デオノーラは全ての部隊長及び訓練教官を緊急招集して事態の収束を図るよう念を押したが、逆に反発して「女王の贔屓に驕った者を断じて竜騎士にはさせない」と鼻息を荒くする者達が多く、そうでない者は中立あるいは不干渉の立場を表明した。
しかも凱の竜騎士叙任を認めたのがアルトイーリスを含めた三人だけという事態は流石のデオノーラも頭を抱える破目になり、「凱と瑞姫だけで一週間の野外訓練を行い、これを遂行する」と苦肉の策と言う名の出まかせな案を出し、不服を唱えた大半の部隊長も「女王の命令ならば」と前置きした上で追加条件をデオノーラに飲ませる事で了承し、ようやく解散となった。
「不味い事になったな……」
「……あの二人の事ですか」
デオノーラがぼやくとアルトイーリスがそう返す。
「うむ。本来ならば来週に叙任式を行う事で決まっていた。内々の事ではあるがな」
部隊長・教官達の余りの剣幕に、流石のデオノーラもぐったりしながら溜息を漏らす。
「部隊長の大半が、ああも強硬に反対するとは思ってもみなかった……。夫や夫候補の者共の意見は何よりも優先するものなのかのう……?」
女王と言う立場故に夫を得る機会に恵まれないデオノーラはそれを羨ましく思う一方で、「夫の意見だから」と一人の竜騎士候補の叙任を阻んで良いものなのかと疑問に感じていた。「出る杭は打つ」という雄達の見苦しい嫉妬が今回の騒動の原因であるのを、彼女は十分理解していた。
署名運動を実際にしていたからと言ってそれを一々罰していては、唯でさえ人手不足な竜騎士が更に人手不足となる一方であるし、凱を贔屓にしていると自ら示してしまう事にもなる。
そうして出まかせな案を出すに至ってしまったのだ。
だが、後悔をしている暇など無い。
凱と瑞姫に言い渡さなければならないのだから。
使者を介してデオノーラに呼び出された凱と瑞姫は、デオノーラから最終訓練の実施を言い渡された。
その内容は一週間の間、外部の助けを一切借りずにサバイバル生活をしつつ、差し向ける竜騎士との戦闘に勝てと言うものだった。
その間にトラブルがあっても自力で解決して行く事も前提条件であった。
無茶としか言いようのない難題だが、これはデオノーラが二人の叙任に猛反対する部隊長・教官達が追加条件として提示したものの一つだった。
二人も女王直々の通達とあれば受ける以外に選択肢は無く、「時間がかかっても良いので準備が出来次第、出発せよ」との言葉に従うしかなかったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ドラゴニアの空と民の安全を守るドラゴニア竜騎士団――
勇壮でありながら仲睦まじい人と竜の集団には、慢性的な人手不足という深刻な問題が常に付きまとう。
けれど常に人員を募集している一方で、ドラゴン属がその希望者全てに宛がわれる事はない。
何故ならドラゴン属もまた魔物娘であり、騎竜、すなわち伴侶となるかどうかの決定権は彼女達にあるのであって、候補生には決定権どころか選択の権利すら無い。
伴侶たる騎竜がいればそれで十分幸運なのだが、騎竜を宛がわれる事の無い不運な者は候補生見習いに格下げされた上で一部屋に最低10人の男が共同生活する寄宿舎に入れられてしまう。
候補生見習いが入れられる寄宿舎に正式な名称は無い。
近年、候補生として入団を希望する男が急激に増えてしまい、それに伴って需要と供給が追い付かなくなっている事態を受けて急造されたこの寄宿舎は、一部の訓練生による揶揄がそのまま名前になった事から「ドラゴニア独身寮」(以後、独身寮)と呼ばれていた。
独身寮に入ると言う事はまさしく、「竜に見向きもされない落ちこぼれ」とその身で証明する事となる。
この独身寮に居住出来る期間は一年だけで、その間に騎竜を得る事が出来れば訓練生となって騎士団への道が開かれる。
それでも騎竜を得られない者は男だらけの生活を強いられる。
そうなった者達は夢と希望が失望と絶望へと変わってドラゴニアを去るか、希望を捨てずに
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