想い触れ合うは帯の如く

ドラゴニアにやって来たエルノール、亜莉亜、朱鷺子、マルガレーテ、ロロティアは第零特殊部隊の隊舎で凱と瑞姫に再会した。
実に二カ月ぶりの事だ。

凱と瑞姫は丁度訓練を終えて帰宅するところだった。
二人は突然の来訪に驚きはしたが、来てくれた事を素直に喜んだ。
だが、凱と瑞姫を目にした五人は驚くしか無かった。
以前と比べても逞しくなり、凱からはオスとしての魅力が更に映えていたのだから。

「久しぶりじゃな、兄上」
「休みを取ったんですか?」
「そう言う事じゃ。わし等はドラゴニアに一週間滞在するでのう。よろしく頼むぞ。それに、もうわしに敬語を使う必要は無い。わしの兄上になるんじゃ、もう堅苦しくする必要も無い」
「そう…ですか?」
「じゃから、それを止めろと言うんじゃ」
「それなら、あたしもですよー」
「わたくしもですわ」

エルノールだけでなく、亜莉亜とマルガレーテも自分達が凱と同じ立場なのだと意思表示する。
瑞姫も彼女達の意見に乗ってくる。

「お兄さんは、もうわたし達のお婿さんだよ。だから同じ立場なんだよ?」

彼女の言葉に凱は俯き、唸る。

「それに、お兄さんがどんな道を進んでも、わたしにはお兄さんが全てなの」

その瑞姫の言葉に即座に反応したのが、合流組の五人だった。

「……瑞姫ちゃん、ズルイ……」
「瑞姫! わしが言おうとしてたセリフを取るな!」
「瑞姫ちゃん! 先に言っちゃダメですよー」
「ミズキったら……」
「瑞姫さまらしいですね」

五人の反応に瑞姫は胸を張り、凱は苦笑するしかない。
しかも今の時間は丁度、夕飯時。折角だから、と言う事で凱は婚約者達を伴い、「居酒屋・呑竜(どんりゅう)亭」に繰り出す。

最近見つけたこの居酒屋は「大衆食堂・火竜」に並ぶ、親しみやすい店である。
凱は格式ばった店がそれ程好きではなく、逆鱗亭はギリギリ許容範囲と言えた。
瑞姫以外の五人はドラゴニア料理は豪快さと量の多さで有名であるのを予め調べて来ている。
その為、食事を朝から摂っておらず、実際の所、かなり腹ペコの状態だった。

「いらっしゃい!」
「今日は七人ね」
「あいよ! 七名様ご案内だよぉー!」
「はぁ〜ぃ! どうぞこちらでぇ〜す!」

ワイバーンの店員に案内されて広めの卓に着くと、たくさんの料理が書かれたお品書きがテーブルに置かれている。

「うわー……、いっぱいある…。全部……食べ切れるかなぁ?」

朱鷺子がそう言うのも無理は無い。
繰り返しになるがドラゴニアの料理は豪快さと量の多さが売りだ。
しかも居酒屋となれば、料理の品数も多い。
そこにエルノールが『魔界蜥蜴肉の生姜焼き』と書かれた一文に注目した。

「これじゃ! これから行こうではないか!」
「その前に飲み物を頼むのがよろしいのでは無くて?」
「あら? 皆様、ここに何か書いてますよ?」

ロロティアの指摘に凱と瑞姫以外の全員が見ると、そのメニュー表には「ハーフ、並み、大、特大のサイズで注文出来ます」と書いてある。

「ロロティア、良く気付いたね。この店、通常の半分のサイズにして食べる事も出来るんだ」
「ドラゴニア料理らしくない、って思うでしょ? でも半分にした分だけ、他の料理を食べられるの」

凱と瑞姫の説明にいたく納得する五人。
そうなれば躊躇するような彼女達では無い。
目ぼしい物を続々とハーフサイズで注文し、テーブルに届けられる。
魔界蜥蜴肉の生姜焼きを始め、ドランスパンで作られた「ドラゴラスク」、薄切りにしたドラゴンステーキや魔界レタス、魔界トマト等をドランスパンの中に挟んだ「DLTサンド」、魔界蜥蜴の挽肉から作った「ドラゴバーグ」、ホルスタウロスミルクから作ったチーズを使ったドリアやグラタン、ピッツァ等、来る物全てアレンジが利いた物ばかりだった。

それに合わせてやって来た飲み物は全てソフトドリンク。
凱自身、甘酒以外の酒は滅多な事では飲まない主義だ。
持っている事は持っているが、それらは全て料理用の安酒である。故に酒類の銘柄には疎い。

「さ、始めようか。乾杯!」
「「「「「「かーんぱぁーい!」」」」」」

カシィッ! とコップが合わさり、一口飲めばそこからは食いまくり・飲みまくりな居酒屋ならではの光景が展開される訳で――。

外は夜になり竜翼通りが更なる活気に賑わうと、呑竜亭も俄かに活気が増して来る。
バーやクラブへの行く途中の物好きな同伴客や何も気にせず飲み食いしたい者等、客層は様々。
居酒屋が客を選ぶ事は無い。
様々な思想を持つ人々が集う集会の場であり、様々な思想を持ち寄って語り合う場でもあるからだ。
もっとも、故意に争いを起こす不届き者はこの限りでは無いし、嫌いな客がいるからなどと難癖付けて店を荒らす者は論外なのだが。

やがて夜は更け、竜の寝床横丁が竜翼
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