凱がキマイラと化した亜莉亜と事に及んで数日。
それは突然の事だった。
瑞姫魔物化の一件以来、音沙汰の無かったマルガレーテが何の予告も無く風星学園にやって来たのである。
特別クラスの制服を着用している上、朝早くに、だ。
エルノールが早速応対にかかる。
「お主は以前、瑞姫の件で出会うた……マルガレーテ? 何故に我が校の、それも特別クラスの制服を着ておるんじゃ?」
疑問に思うのは当然の事だ。
リリムであるマルガレーテが、わざわざ学校で何かを学ぶ必要性など一つも無い。
人間界で例えるなら、王族もしくは皇族となるリリム達はドラゴン属とは違った意味で珍しがられる種族だ。
「気になる殿方がおります故、わたくし、この学園の生徒になるべく参りましたの」
この言葉に心当たりがあるのを察したエルノールだが、今すぐ口に出す事を敢えて避けた。
「しかし、お主はリリムじゃ。わざわざ学校で学ぶ事も無かろう」
「母である魔王様は言われましたわ。『お前はオスを知らなさ過ぎる』と」
マルガレーテの言葉にエルノールは答える。
「…そのオスを見つけて、お主はどうするつもりじゃ?」
「わたくしの婿に、いいえ、その方の妻となりますわ」
マルガレーテがすかさず答える。
対するエルノールは意志の固さを感じ取っていた。
「そこまでの決意とはな…、よかろう」
じゃが、とエルノールは続ける。
「お主の意中の殿方がおるのは特別クラス、それも職員じゃ。しかも特別クラスには事情があってな、教師以外の魔物娘を受け入れる事は出来ん」
「な……っ! 何をおっしゃって…」
「申し訳無いが、わしには心当たりがあるでのう」
見透かしたのか、鎌を掛けたのか。
マルガレーテは迂闊に答えを出せない状態となる。
「では…、お主を個別クラスに迎え入れる、というのはどうじゃ?」
「個別?! それでは、わたくしがこの服を揃えた意味がありませんわ!」
確かにマルガレーテは制服姿である。
個別クラスと聞かされてはどんな制服なのかはさっぱり分からないし、第一、彼女も初耳であった。
「そうかのう? 意味なら後にでも十分見つけられる、そうは思わんか?」
「わ、分かりませんわ!」
「少し気が早いじゃろうが、その服を伽(とぎ)の道具にして見るのも良いじゃろうて」
「と…伽?! まさか、コ、コ、コ、コスプレ…っていうものですの?!」
「お主も初心(うぶ)じゃのう、ククク。コスプレも伽での重要な要素の一つとなる。頭の片隅にでも留めておくが良い」
「からかわないで下さいませ! 迷惑ですわ!」
顔を真っ赤にして憤慨するマルガレーテを余所に、エルノールは遮るように話を切り出す。
「お主らリリムの力は、あっという間に周囲を魔物に変えてしまうほどじゃろう? それにリリムが一般の生徒となれば、また厄介事が増えるでのう……」
「わたくしを厄介とは無礼な!」
厄介呼ばわりされたマルガレーテは更に憤慨する。
「そう噛みつくでないわ。うちにはドラゴンとなった生徒がおるでな。色々な所から引き抜き工作をかけられとるんじゃ。しかもその生徒はお主が直接関わったんじゃぞ?」
エルノールの言葉に心当たりを察し、マルガレーテは無言でうなだれてしまう。
「落ち込んでも仕方あるまい。瑞姫の素質、それもドラゴンという現実がもたらした結果じゃからな」
「そうは言われましても……!」
マルガレーテの反論にエルノールは「まあ待て」と言いながら続ける。
「お主の気持ちは分からんでも無い。じゃが、命を救う措置がこんな結果になるなど、誰も予想出来まい。そこでお主を個別クラスに編入しようと思い付いた。あのクラスは瑞姫を生徒とし、人虎となった元生徒を臨時の教師に据えておる。まずは、その魔物化した二人に触れてみる事から始めてみてはどうじゃ? そうして第三者の目で特別クラスを見ていけば、魔物娘となる素質を見極めるのは容易ではないか……と、わしは思うんじゃがな」
彼女は、黙って聞くマルガレーテに対して更に言葉を続ける。
「大事なのはこれからじゃ。この学園に今後もどんな災禍が降りかかるか分かったものでは無い。生徒を将来の魔物娘として育てる事も大事じゃが、その生徒を守る事はもっと大事じゃ。特別クラスの生徒となった娘達は皆、同じ人間に酷い仕打ちを受けた者ばかり。望まれず、祝福されずに生を受けた者。理不尽に操を捨てさせられた者。生きる為に罪を犯した者。容姿や病気で酷いいじめを受けて精神的な傷を負った者等、様々じゃ」
「…………」
「人間に絶望している者達の心を開かせる事は容易では無い。今は龍堂君がおるからまだ何とかなっておるが、あ奴は『職員』であっても『教員』では無い。関わる生徒も極一部に過ぎん」
「…………」
「魔物娘となる意思を持たせ、その
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録