同日夕方――
数日間の業務をアルマに委任した亜莉亜が学園長室にやって来た。
エルノールと凱が彼女を出迎える。
「よう来た。これからお主はサバトの支部について来て貰うぞ」
「サバトの支部、ですかー?」
「そうじゃ。ちと大掛かりなものじゃから、支部で行う事になったんじゃ」
「……と言う事は、サバトに入れって事になりますよねー?」
間延びした口調で鋭く切り込む亜莉亜に、エルノールは動じず答える。
「それはお主の意思次第じゃ。無理矢理入れるなど、わしは好かん。手頃な場所が支部しか無かったのも確かじゃがな」
「そうですかー。それじゃ、支部に案内してほしいですよー」
「軽いのか素直なのか、良く分からんのう、お主は……」
ニコニコと答える亜莉亜に思わず溜息を零すエルノールは、亜莉亜と凱を促し、サバトへの通路へと入って行く。
無言のままにサバト風星支部に到着した三人の目に飛び込むのは、万全の態勢を整えている構成員達の姿だった。
「エルノール様、儀式の準備は整っています! 何時でも御命令を!」
一様に凛々しい表情の構成員達。
団結力なら何処のサバト支部にも負けないという矜持の表れなのか。
自分が思っていたよりも遥かに強い構成員達の繋がりに、エルノールは感慨無量の面持ちになっていた。
「触媒の準備は出来ておるか?」
「何時でも運べるよう準備してます!」
この返答に大きく頷くと、開始の号令を出す。
「よし! 取り掛かるぞ! 各自、所定の位置に就け!」
「「「「「はい!!!!」」」」」
「兄上。儀式が始まったら、これに書いてある事を実行してくれ」
エルノールが凱に手紙を渡すのと同じくして、構成員達は整然と与えられた役割とその位置に就いて行く。
「鬼灯教諭、儀式は大掛かりとなる。暫く眠らせるから我慢してくれ」
言うが早いか、エルノールは亜莉亜に向けて少々強めの睡眠魔法を投射する。
亜莉亜は何かを言う暇も無くあっさりと眠りに落ち、エルノールの浮遊魔法によって魔法陣中央に運ばれていく。
そのタイミングに合わせて蛇、鹿、ドラゴン、そして兎の触媒が東西南北の位置に置かれていった。
触媒が魔法陣に反応し、様々な色に輝きだす。
同時にこれが儀式の合図となった。
「四方に来たりし獣達よ。我が下で一つに集い、新たな命となりて我が前に現せ!」
この言魂が魔法陣の輝きを妖しげにし、四つの触媒もオーラを纏いながら反応を示して行く。
一つ目に動き出したのは蛇の触媒としていた、脱皮した蛇の皮だ。
皮は魔物の魔力を受けて元の姿形を成し、亜莉亜に向かって動き出す。
向かう先は彼女の右腕。
蛇は右腕に巻きつくと、吸い込まれて消えて行った次の瞬間、二匹の黒い蛇となって右腕を交互に絡め取り、シャー! と威嚇する。
次に動いたのは鹿の触媒としていた、鹿の頭の剥製。
ひとりでに浮かび上がると、こちらは左肩に向けて浮遊し、蛇と同様に同化する。
鹿の頭は骨のような色合いと角ばった形に変化していき、角も母体を合わさるかのように縮小・変形し、大きな肩当てとなっていく。
更に左腕全体が骨を思わせるような形状に、まるで外骨格と一体化するかのように変化していった。
しかし、変化はこれだけに留まらない。
左腕が終わったと思いきや、今度は膝から下の両脚部が母体に合わせるように鹿の足を形成していくのだ。
形成された蹄に白い毛並みは、鹿のそれである。
鹿の触媒を移植し終えた次に動くのは、ドラゴンの爪と鱗。
古くなって抜け落ちた瑞姫の爪と鱗である。
これらは母体の腰辺りに飛来し、吸い込まれていった。
だが、数分経ってもドラゴンの力が顕現しない。
魔物化でドラゴンとなるならまだしも、外部から移植してその力を得ようと言うのだから、馴染ませるのにも時間はかかる。
エルノールの詠唱にも更なる力が入った。
僅かでも集中を乱せば、たちまち儀式は失敗に終わる上、亜莉亜の身に何が起こるか分からない。
更に魔力を込めた詠唱が場内に響き渡る。
その甲斐あってか、腰骨の辺りからゆっくりと、小さい翼と長めの尻尾が形成されていった。
だが、ここでかなりのロスが発生し、エルノールの身体は汗で彩られて来ている。
そうしていよいよ、最後の触媒である兎の足が動き出す。
ゆっくりと《亜莉亜(母体)》の上にやってくると、弾丸のように心臓へ下り、吸い込まれる。
亜莉亜の身体に四つの触媒が溶け込み、身体にも大きな変化が出始めた。
髪は金色に変色し、頭部からは白い兎の耳に加え、ほんの小さな角が姿を見せる。
亜莉亜は遂にキマイラへの魔物娘化を果たし、後は目覚めを待つばかりだった。
ようやく儀式を終え、エルノールは疲労困憊となりながらも構成員達に退去を命じた後、今にも倒れそうな足取りで凱がいる食堂に足を運んで行
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