朱鷺子は卒業後、嘱託の用務員兼、瑞姫の専属教師として風星学園に留まる事となった。
旧・宿直室を改装した専用の居室を宛がわれ、あっという間に春休みが終わり、新年度が始まる。
新入生は僅か五人だったが、特別クラスは中途編入も十分にあり得る学部だったので不安も何も無かった。
サバトの魔女達も一部は通常の学部に編入となり、授業を受ける。
人間を装う者も中にはいるが。
「……さて、と、今日から……瑞姫ちゃんとのマンツーマン、かぁ……」
だるそうな、かつ眠そうな口調は教える者としては全く向かないだろう。
とはいえ、個別授業という例外中の例外を行うのだから、そう咎められる事も無い。
しかも朱鷺子が着ているのは学園の制服。
ブレザーを着ず、パーカーの下はかなり着崩したスクールブラウスにネクタイ、スカート。
おまけに紺のハイソックスにローファーである。
最近まで着用していた制服を普段着として使い回すつもりらしい。
手に持つ物は出席簿と複数の教科書や武術・法術教範。
エルノール自らが、降って湧いてきた激務の合間を縫って見繕った物だ。
龍堂家に対し、有力者達の追求・攻撃が激しくなり、弁護士を名乗る三百代言が多数押し寄せている。
加えて千奈の失踪に親族が弁護士を雇って連日抗議にやって来る有様。
エルノールは主にそれらの対応に追われていた。
瑞姫の父・信隆が出向している魔物娘が経営する企業でも彼に対するパワーハラスメントとモラルハラスメントが知れ渡っており、エルノールから事情と窮状を聞かされた魔物娘の幹部達は、この対抗策として信隆を正式に社員とし、それと共に取引や立場を盾に脅しをかけた者達を逆に取引停止にしたり、懲戒解雇とした。
無論それで済む筈も無く、解雇された者達は不当解雇を名目に訴訟を起こしている。
来る者皆、瑞姫が目当てであり、あわよくば凱を殺そうという計画も既にサバトの調査で明らかだ。
この件を聞いた初代も流石に黙っている訳にはいかず、全サバトに風星支部の救援と支援を通達。
魔界本部も一部の人員を風星支部に派遣し、事態の収拾に当たらせている。
朱鷺子は友人の受難に溜息が出るばかり。
せめて自分だけでも味方であり続けよう、と思いながら、瑞姫しかいない教室の前に辿りつく。
ガラガラと引き戸を開けると、そこには物憂げな表情を浮かべる瑞姫の姿があった。
「あ……、朱鷺子、さん」
遅れて対応する姿には、件の事態が尾を引いている証拠。
生活の方にも支障が出ている事は朱鷺子の目からでも明らかだった。
「……今日は、自習にしよっか」
突然の提案に驚く瑞姫に、朱鷺子は言う。
「そんな気持ちで勉強しても……、頭に入ってくれないよ? だからさ……、今日は何もしないで気持ち落ち着けようよ。……実はボクも、千奈ちゃんが失踪したって聞いて……、あまり落ち着けないんだ」
「そう……ですか」
瑞姫も千奈失踪の件は聞いている。
卒業式を終えて、校舎を出るまで見送ったというのに、その彼女が姿を消していたのだから。
鬱陶しくても、友人としては悪い人じゃ無かった――そんな感情が朱鷺子の心に覆いかぶさる。
「……ちょっと、校庭に出てみよっか」
「そうですね」
だが、これが凶事と自身の分岐点になるなど夢にも思わないだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あ〜あ、桃華ヒマ〜。何かスカッとした〜い」
登校時間なのか、制服姿をした金髪でツインテールの少女がぼやきながら歩く。
彼女が纏うのはシンプルな黒のブレザーにグレーのスカート、赤の紐ネクタイ。
だが、派手に着崩しており、これ見よがしに胸を強調させる姿は痴女か一昔前のギャルであろう。
そんな彼女は気まぐれで風星学園特別クラスの校門まで来ていた。
「ん〜? 何あれ〜?」
その目には入るのは兎耳のパーカーを纏った少女と、白金の髪を持った魔物娘。
「あ、あれまさか、風星で生まれたドラゴン!?」
近隣にも既に瑞姫の事は伝わっている。
周辺校でも瑞姫を付け狙う者は男女問わず多かった。
「よぉ〜っし! あの子をガッコに連れてって、転入させちゃおっと!」
軽い足取りで風星の門をくぐる女子高生。
無論、その姿は朱鷺子と瑞姫の目に入る。
「ねぇ〜、あんた、龍堂瑞姫でしょ?」
「…はい? そうです……けど?」
悠々と入ってくる他校の女子生徒から声を掛けられ困惑する瑞姫。
だが、瑞姫の反応などお構いなしだ。
「さ、細かい事はいいから、黙って蓮石(れんごく)に来なよ。こんなとこよりず〜っと楽しいんだから♪」
瑞姫の手を取り、あまつさえ引っ張って行こうとするが瑞姫は即座に抵抗する。
「やめて下さい!」
いきなり自分を連れて行こうとする女に嫌悪の目を向ける瑞姫。
そこに凱がやってくる。
侵入者の気配を察知し
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