義両親に心配顔をされた凱は、仔細を話す為に彼らと共に居間へ移動した。
そこで凱は話し始める。
「まずは……、これを」
こう切り出して差し出したのは、凱がエルノールから預かった手紙であった。
封を切られて出てきた手紙にはこう書かれていた――
***
ご両親殿
ご息女の件で至急お伝えしなければならない為、このような形となりました事をお詫び致します。
貴方がたのご息女は魔物娘の中でも希少種とも言える、ドラゴンと言う種族へと変わりました。
病院での一件がありますので、ご息女の事は周囲の耳に入っているでしょう。
既に当学園に「竜の娘を引き取り、婚姻させる」と有力者達が殺到して来ております。
この手紙が届く頃には、そちらもご息女の事で散々な事となっている筈です。
そこで誠に勝手ではありますが、
学園長としての権限を行使し、ご息女とご子息を当学園で預かり、居住させる事と致しました。
その為の施設を現在、改装している為、春休みが明けてからとなります。
お子様達の幸せを願うが故の独断である事、何卒ご容赦下さい。
また、貴方がたにもこれ以上の被害が及ばぬよう、関係各所へ働きかけております。
どうか今暫く、ご辛抱頂けたら幸いです。
風星学園 学園長 エルノール
***
信隆も観念したように凱に話し出した。
「実はな、凱。私にもこの手紙と同じような話が来てるんだ。取引先や今の上司……人間の上司だ。「君の娘はうちの息子の嫁に迎えるのが相応しい。婚約者気取りのゴミを捨てろ」と……」
悔しさを滲ませる父の顔を凱は黙って見つめている。
「無論断った。私も魔物娘達が経営する会社に出向する身だし、彼女達の特性も聞いていたしな。だが、それで引き下がる連中じゃ無かったよ。お前の事を引き合いに出し、それでも断るなら今後の取引を取りやめる、とか会社にクビにする、とも脅された」
凱の目に黒い怒りの炎が燃え上がる。
自分だけが不幸になるならまだ割り切れる。
だが、ただ歳を重ねただけの身勝手な連中が瑞姫を奪おうとし、あまつさえ両親の生活も脅かしているのだから。
彼は重々しく告げる。
「この事を学園長に報告します」
「そんな! 止めるんだ! 下手に動けば余計に動きを悟られるぞ!」
義父の言葉を無視しつつ、凱は電話をかける。
相手は無論、エルノール。
彼女が凱に直通の番号を教えていたのである。
『もしもし、龍堂君か?』
「はい、学園長。結論から言います。状況は思った以上に悪くなってます」
『後手に回ってしもうたか。じゃが、手はいくらでもある。盗聴されているとの連絡が入っとるから、お主らはそのまま待て。わしが今からそちらに向かう』
「……分かりました」
電話を切った凱に、今度は紗裕美が懇願する。
「あんな姿になっても、瑞姫は大事な娘。凱君、娘を、瑞姫を守ってね…!」
この言葉に黙って頷いた時、紫黒の光を帯びた魔法陣が中空に浮かび上がり、エルノールが姿を表わす。
「学園長……!」
「皆そのままにしてくれ」
何時に無い威厳と迫力を持って、エルノールは凱達を制止しつつ、魔法の詠唱を始める。
その瞬間、機械の破裂音と遠くからの悲鳴が居間に響き渡って来た。
破裂した機械は盗聴器だった。
「……ここまでやるとは。これは急いだ方がいいじゃろうな」
彼女はサバト風星支部の構成員を各所に展開させ、有力者達に雇われた探偵やストーカーを一網打尽にしたのだ。
エルノールは本題を切り出す。
「この家はもう危険じゃ。必要な荷物と貴重品を持って、今すぐ風星学園に移動して貰う」
「しかし学園長、家財は?」
「心配要らん。我が支部で運び出す」
有無を言わさぬ、ドスの利いた口調が凱達に選択の余地を与えなかった。
こうして、龍堂家は風星学園に転移され、空室が増えた特別クラスの学生寮に一時身を潜める事となった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
潜伏を強いられる急展開となった翌日は生憎の雨模様となっていた。
仕事を終えた凱は「エルノールに話がある」と側近の魔女に言伝を頼み、返事を待っていた。
この時、エルノールは龍堂家に対する脅迫があった事への対策をすべく、関係各所を奔走していたのだ。
加えて千奈の失踪も重なっており、対応に追われていた。
数時間後の夜の事、側近の魔女から電話が入る。
『エルノール様が戻りました。学園長室に来るようにとの事です』
この言葉を受けて即座に身支度を整え、学園長室の前にやってきた。
凱は深呼吸して、学園長室の扉を叩く。
『誰じゃ』
「龍堂です」
『待っておった。入れ』
「失礼します」
入るや否や、エルノールが待ってましたとばかりに椅子から降り、応接用ソファーに促す。
凱が座ると同時にエルノールもソファーに腰掛け、話
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