卒業の後は厄介事がしゃしゃり出る

瑞姫がドラゴンと化し、凱と結ばれてから少々の月日が経ち、新たな春を迎えた頃――

いち早く魔物娘となった瑞姫は16歳になると共に美しく成長し、家庭科の成績は今や特別クラスの、ともすれば学園トップの地位にいた。
これはひとえに凱と過ごす日々の中で、彼の背中を見ながら実践していた事が大きい。

朱鷺子は18歳となり、僅かではあるが明るい笑顔を見せるようになった。
だが、彼女は学園を卒業しなければならない。

学園ではそれぞれの棟で卒業式が挙行された。

学園長であるエルノールは水晶球から投影された映像で全ての棟へ向けて一斉に式辞を述べる。
卒業証書も中等部・高等部では各教頭が、特別クラスでは担任である亜莉亜が卒業生に授与する手筈だ。

各棟でつつがなく卒業証書の授与が終わり、在校生達による見送りが行われる。
だが、凱は少し心が浮かなかった。

それは瑞姫の親友となった朱鷺子の事だ。

凱は独自にサバト風星支部の魔女に接触して調べてもらっていた。
その結果で分かった事は――
彼女の両親が凶悪テロ組織の構成員とブローカーで現在は国際手配を受けている事。
朱鷺子自身が親戚から疎んじられて学園寮での生活を余儀なくされていた事。
――この二つだった。

更に彼女は卒業と共に、家代わりとなっていた学生寮を退寮しなければならない。
かと言って、両親が存命である限り彼女には社会人としての将来は無い。

そこで凱は事前にエルノールとアリアに対し、朱鷺子の事をどうすべきか談判した。
余計な介入であることは十分承知していた。
個人的な贔屓に繋がりかねない事も。
それでも、義妹がようやく自分の力で作る事が出来た友人を放っておけなかったのも、また事実だったのだ。

エルノールも実はこの事について独自の計画を立て、実行に移していた。
それが本人の元に知らされるのは、朱鷺子本人が退寮する頃となるのだが……。

ティーパーティーをきっかけに親交を交わし合った女生徒の一部も朱鷺子同様に卒業していった。
彼女らは見送りを受け、寮を出た後、適性の高い魔物娘となるべく魔界へと旅立つ事が決まっている。
それが特別クラスの存在意義でもあるし、社会や親族から見放された彼女達にとって人間の世界など、未練どころか興味すら無いのだろう。

卒業式を終え、新学期までの短い春休みに入る最後の見回りを終えた凱は報告書を書くべく職員室に戻る。

亜莉亜以外の教師陣は既に仕事を終えていた為、一足早く実家へ帰省していた。
天涯孤独のアリアにとって、新しく移ったマンションが自身の実家だ。

瑞姫は新学期から個別授業となり、同時に【特別寮】への入寮を終業式で告げられた。

それは言わずもがな、いち早く魔物となった為だ。
変じた種族がドラゴンとなれば、学校内外への影響は大きい。
ましてドラゴンは魔物娘の中にあって最高位に位置する種族の一つ。
素質を持つ人間自体も少な過ぎるのでは、希少性も高くなる。

エルノール個人の考えとしては、ドラゴンとしてはまだ幼いと判断したのも理由ではある。
けれどそれ以上に、サバトへの好感を示した瑞姫をそのままサバトに引き入れ、そのまま凱も引き入れる事こそが最大の目的であった。

適切な力と知識を身に付けさせ、その制御も出来るようにさせる――

そうすれば、サバト本来の役割である「魔王軍・魔術部隊」の発展に寄与するであろう、という目論みがあるのだ。
しかも瑞姫はサバトに好意的であるし、風星支部の構成員達からも参入を心待ちにされている。

エルノールにとって、初代からの勅命である以前に千載一遇の好機。
ドラゴンになった瑞姫の力をみすみす手放す事など出来る筈も無い。
特別クラスの半分程度の面積がある一室が空いている事に目を付け、そこを瑞姫専用の教室として使う事にもなった。

瑞姫はいきなり親と離れる事になる寂しさと不安に押し潰されそうになっていた。
なれど魔物娘、それもドラゴンとなった事を鑑みれば、止むを得ない措置と言えたかもしれない。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

朱鷺子は荷物をまとめていた。

卒業し、学生としての身分が無くなった以上、彼女は寮から出なければならない。
そして春休みが明け、新しい年度が始まれば、この部屋を新たな生徒が使う事になるのだ。
実は今回の卒業生で朱鷺子が最後の退寮者だった。
本来なら既に魔界へ旅立つ一人である彼女が、魔界行きを決めていなかったのには訳がある。

三年間の寮生活が、朱鷺子に大切なものを得るきっかけを与えたからだ。
大切なもの――それは友達。
瑞姫との出会いは朱鷺子に笑顔と安らぎ、そして新しい夢へ進むきっかけとなり、凱との出会いは自活する術を与えて貰った。
二人以外にもそれなりに交流出来ていたが、何しろ彼女自身がダウナー思考ゆえ、多少の話し相
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