恋心 − それは竜へ変わる力

凱は病院に付き添いで来ていた。
彼の眼に映るのは、息も絶え絶えに苦しむ《少女(瑞姫)》の姿…。

気や魔力の動きから、ドラゴンの力が解放されずに暴発寸前の状態だった。
その力は瑞姫の体内を蝕み続け、臓器の働きを急激に弱めている。

診断の結果、彼女はあらゆる臓器の病にかかっているのと同じ状態だった。

言ってみれば多臓器不全に近い状態である。
瑞姫を診察した医者もあっさり匙を投げる有様。
両親はあらゆる手を尽くして、別の医者を探し始めている。

病室も個室に移され、意識を失い、ただ苦しそうに呼吸を続ける瑞姫の姿はあまりにも痛々しい。

脈拍も僅かながらに弱り始めている状態では、医療知識の欠片も無い凱ではどうにもならない。
そこで凱は学園長に携帯で直接連絡を取り始めた。

『どうした龍堂君。妹の事か?』
「はい。このままでは……。恐らくは多臓器不全で……」
『そうか……。お主に分かる事であれば教えて貰えんか? もしかしたら力になれるやもしれん』
「本当ですか!?」
『賭けじゃ。お主が分かる事を聞いてからじゃからな』

自分に対するエルノールの呼び方が突如変わった事に、この時の気持ちが向く筈も無い。
賭け、の言葉に逸る気持ちを抑え、凱は説明を始める。

「私が見たのは白い……、翼にまで腕を持ったドラゴンが瑞姫を捕らえている事です」
『……っ!! それは本当か!』
「黒い水晶玉が私に見せたものですが……」
『何じゃと?! それとお主、以前リリムに会うたと言っておったな。その者の名前は分かるか?』
「マルガレーテ……と名乗ってました」

この瞬間、空間を飲み込む様な漆黒の魔力が廊下から吹き上がった。

「えっ!?」
『龍堂君? どうしたんじゃ! もしもし!』

漆黒の魔力はやがて形を成し、現れるのは魔王の娘であった。
彼女は念動力のようなもので凱から携帯を奪い取り、電話を替わる。

「もしもし。風星学園の学園長さんね?」
『もしかしてお主が!?』
「わたくしが、ご紹介に預かりましたマルガレーテですわ」
『ならば話は早い。そこにいる男の妹を診て貰えぬか、頼む! わしもすぐそっちに行く!』

そう言いながらすぐに通話を切ったエルノールに対し、少々の沈黙をするマルガレーテ。
だが、彼女は瑞姫を見て、答えを出す。

「よかった……。まだ、間に合いますわ」
「一体どう言う事だ」

電話を切りながら安堵するマルガレーテとは反対に、凱は瑞姫の事が気掛かりでならず、警戒心剥き出しで彼女に問う。

「貴方の妹さんの中にあるドラゴンの魔力が急激に増しています。このままでは身体どころか命がもちませんわ」
「つまり瑞姫は……死ぬしか無いって事か!」
「有体に言えばそうなりますわね。このままではドラゴンの力に耐えられないですわ。ですが、わたくしも初めて見ましたわ。最高位の力を持つ魔物娘の適性を……」

マルガレーテはリリムとしてはまだ若い、と言う事か。
凱がすかさず問う。

「瑞姫を助ける方法は無いのか!?」
「魔物娘に変える以外に方法はありませんわ。さもなくば――」
「ま……も、の……むす、め、に……?」

二人の問答に瑞姫が弱々しく意識を取り戻し、問いかける。
覚悟を決めなければいけない、と意識が遠ざかる程の激痛に耐えつつもマルガレーテの姿をうっすらと黙視し、息も絶え絶えにゆっくりと言葉を紡いでいく。

「もし……わたし……が……まも、の、むすめ、に、なった……ら…、お、にい、さん、は……どう、なる…ん……です……か?」

その様はマルガレーテの心を締め付ける。
愛する義兄への強い想いと自分がどうなってしまうのかという恐怖が瑞姫に重く圧し掛かっていたのを感じたからだ。

「今から言う事を……、良くお聞き下さいませ」

マルガレーテの顔が真剣なものになり、再び言葉を紡ぐ。

「ミズキさん。貴女はドラゴンの適性を持っていますわ。けれど、今の状態では貴女の体が耐えられませんわ」
「……?」
「ですので、わたくしがこれから魔力を送り、ドラゴンの力の暴走を鎮めます。後は貴女が想う殿方への愛にかかっていますわ」
「あ、い……?」
「ええ。でも、わたくしは強制する事が大嫌いですの。決めるのはミズキさん、あなたの意志ですわよ」

リリムの力は強制的に魔物娘へ変える程に強大。
なれど、その者の意志を問うのがマルガレーテの信条だ。
面白半分に人間の女性を魔物にしても、後にあるのは残された者達による、終わりの無い怨嗟と報復。
それを嫌と言う程見せられて育った彼女だからこそ、どんな場所であっても魔物になるか否かの意志を問うてしまうのだ。

一方の瑞姫も、愛しい義兄と共に歩めるならば、と残された力を振り絞って答えを出す。

「なり、ます……。まも、の……むすめ、に……。おにい、さん
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