遅過ぎた転校生

警察との争いから、あっという間に二年の月日が流れた。
その間、何処からも攻撃や脅迫が無かったのが却って不気味過ぎる程、平穏な日々だった。

そんな日々を経て朱鷺子は六年生、瑞姫は四年生にそれぞれ進級し、クラスメイト達との二度の出会いと別れを通して友情を育んでいた。

季節も秋となり、朱鷺子達六年生は卒業を控え、魔物娘としての適性診断と移住先を決める時期に差し掛かっる。彼女達はその結果に一喜一憂しつつも、早い者では王魔界や万魔殿へ行く事を決めていた。
しかし、行き先に誰も選ばなかったのが「不思議の国」だ。支配者であるハートの女王の意向が強く働くと聞いて、朱鷺子以外の六年生達が敬遠したせいである。

その朱鷺子は「人虎としての適性が最も高い」との判定を受け、とても珍しがられた。
もっとも、彼女自身は不思議の国はおろか魔界に対しても特に関心を持っておらず、それほど執着は見せていない。

そんな六年生らのやり取りが終わり、間もなく冬に差し掛かろうとした秋の終わり――「それ」はやって来た。

ある日の事、少々多めの荷物を肩と背中に担いだ少女が学園の門をくぐった。
寮母に出迎えられた彼女は割り当てられた部屋に入り、荷物を邪魔にならない場所に置くとすぐに制服に着替える。
だが、その制服は前の高校で着用した物だ。

亜莉亜は転校生となる少女の出迎えを済ませ、彼女を教室の前で待たせる。
かつての瑞姫がそうだったように。

「はーい、みなさーん。今日から新しい子が入るですー。入ってくるですよー」

亜莉亜の声に応じて現われた少女に、生徒全員が動揺を隠せない。
特別クラスに来る事自体が間違いであるかのように。
その一番の特徴は制服が学園の物では無く他校の、しかもそれなりに有名な女子高の物だった事だ。
更に言うなら少女にしては背がやや高く、それに見合うかのように豊満な体つきをしていた。

「自己紹介、お願いするですよー」
「結城千奈(ゆうき・ちな)です。短い期間ですが、どうぞよろしくお願いします」

千奈と名乗った少女は挨拶の後に深々と礼をする。
短い期間と言ったのには訳があった。

彼女は18歳、それも本来は高等部に入っていてもおかしくない。
しかし卒業まで半年も無い状態で、それも父親の急な転勤によって転校を余儀なくされたのだ。
この町から新幹線でさえ一時間はかかる遠方となれば、学生寮が無い限り下宿住まいか自主退学、あるいは転校のいずれかを選ばされる。
追い打ちをかけるように通っていた女子高は校則が厳しく、下宿や寮に入るのに厳しい審査が必要だった。
加えてアルバイトは一切禁止であった為、仮に下宿や入寮の申請が通っても生活費を自力で稼ぐ事も出来ず、仕送りも学費の支払いに殆ど取られ、残金は雀の涙ほどにしかならない計算となったそうだ。

《学園長(エルノール)》が同日の放課後、教師陣と凱に話した事は二つ。
一つは、彼女の父は家族の為にやむを得ず転勤を受け入れたとの事。リストラ候補だった為、断ればその時点で即解雇だったという。
もう一つは、急過ぎる上に卒業間近の状態だった為、既に近隣全ての高校から受け入れを拒否されていた。
風星学園が最後の頼みの綱だったとの事で、制服の仕立ても時期的に無理だった。

更にエルノールは何を思ったか、彼女を特別クラスに編入させた。
多分、卒業まで僅かしか無い少女をこのままにするのは惜しいと同情したのかも知れないが、学園長の考えを推し量る事など凱達には出来かねる事だろう。

余りにも突発的かつまずあり得ないであろう状況。
人間社会における理不尽の一端を如実に表しているとも言える。
けれどそれは闇に葬られる。
事例の少な過ぎるものにいちいち気にかけないのが人間社会というものだから。
まして卒業まで半年を切った時期での父の突然の転勤である。
そんな状況で仮に入寮の審査が通る頃には卒業しているのがオチであろう。

エルノールが後に調べたところによると、千奈は交友関係に恵まれていた。
友達が少なさそうな子と優先的に絡もうとする為か、友人の幅は広くは無いものの、以前の学校でも朱鷺子と同じような他人と関わろうとしない者へ率先して絡んでいったのだという。

千奈と友達になろうとする子も多数いた上に、彼女自身もそれを断ったりしない性質ゆえに友人は意外と多かったのだ。
転校を惜しまれ、入寮の申請を早めるよう友人達による嘆願請求も起きた。
だが、学校側は「規則に例外は許されない」としてこれを一蹴。
そればかりか、学校側は嘆願請求を起こした生徒達を保護者も呼び付けた上で停学や退学を臭わせつつ、口頭による厳重注意という事実上の執行猶予に処した。

この為、千奈は責任を取る形で転校を受け入れたという。

とはいえ――
「携帯で連絡取れるから」
「LINE
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33