一つの身体と二つの魂

警察との悶着を終え、風星学園特別クラスの授業が再開されるのはその翌週の月曜と決まった。

教師陣及び凱はそれらの調書と始末の作成の為、ずっと学園詰めであり、朱鷺子のメンタルケアにも追われていた。
しかもそこに思いもよらぬ来訪者が現われたのだ。

「お兄さん」
「み、ず……き?」

家に帰って来たと思ったら、着替えを持って出て行ってしまった凱に不安を覚えた瑞姫は両親を問い質したのだ。
両親から凱が週明けまで学園に泊まり込みになる事を知るや、制服に着替えた上で着替えなどの衣類や勉強道具を持ち出し、彼らに懇願する形で学園にやってきたのである。
両親も娘を学園に送る為に一緒に来ており、エルノールは直々に彼らを学園長室へ案内した。

「あの子ったら兄と一緒じゃ無ければ嫌だ、と聞かないもので……」
「成程、そうじゃったか」
「いくら身内とはいえ、年頃の娘と関係が公になってしまうのが心配で……」
「それならば心配は要らぬ。そち達家族の事は、既にわしが調べ上げておるでのう」
「え!? しかしそれは――」
「御子息は用務員としてよう働いておるし、御息女もなかなかの成績。あの二人はお主達が思っておる以上にお似合いの仲じゃぞ」
「と、申しますと?」
「血が繋がっておらぬ事も、許嫁同士である事も、全て知っておる。もっともこれを知るのはわしだけじゃが、仮に間違いがあっても案ずるでない。そうなった時の手は打ってあるでのう」
「大丈夫、なのでしょうか?」

紗裕美が恐る恐る尋ねるが、エルノールは自信満々で答える。

「ははは、心配は要らぬ。御子息はあれでいてかなり自制の利く男じゃからのう」
「万が一の時にはお願い致します」
「その時はその時で対策は幾らでも立てられる。ご案じめさるな」
「……分かり、ました。それでは…娘を、宜しくお願いします」
「承知致した。食事や入浴もこの学園で賄えるゆえ、心配は無用じゃ」
「「お願い致します」」

両親は深々と一礼し、自宅へと戻って行った。

「ま、あの男なら間違いは犯さん」

分かりきったような口ぶりで呟いたエルノールは窓越しに外を見つめ、物思いにふける――

凱は学級閉鎖の間、宿直を担当する事になり、宿直室が実質的な仕事場兼宿泊場所であった。
どう言う訳かトイレやシャワー室も完備しており、下手なホテルより居心地が良い環境だった。

瑞姫は身内とはいえ男女が一つ屋根の下にいるのは示しが付かない、との理由から、メンタルケアの一環として学園長命令によって朱鷺子の部屋でルームシェアをする事となった。
1R程度の間取りを持ち、少し無理すれば二人で過ごす事も可能なくらいである。

「……どうして来たの?」
「え? それは、その……」
「……用務員のお兄さんが……いるからでしょ?」
「っ!?!!」

朱鷺子でも分かるくらい、瑞姫の行動原理はハッキリし過ぎていると言った所か。

「……お兄さん、大好きなんだね」
「……はい」

ストレートな問いかけに瑞姫は頬を朱に染めながら、弱々しく答える。

「……ボクにもあんな家族が……いたらいいな、って。……瑞姫ちゃんが……羨ましい」
「朱鷺子さん……」
「……ねえ、お兄さんの事……、教えてくれる?」

環境の違う二人ではあったが、年齢を超えた友人として、関係を深めるのにそれほど時間は要しなかった。
その二人の間にあったのが、凱と言う異性の存在だったのだから。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

数時間後、エルノールはサバト風星支部にいた。
先日の支援の労いに加え、初代への連絡を行っていたからだ。

『先日の一件、御苦労じゃったな』
「あれは……賭けでした。失敗すれば、計画を進める事が叶わぬ状態になっていたのですから……」
『そうじゃな。神奈川県警に勤務する魔物娘達が協力を申し出てくれなければ、風星支部は潰されておったからな』
「龍堂君の力にも助けられました。武のみならず、件の生徒との面識を持っていた事が何よりの幸いでした……」

凱への呼び方の変化に、初代がいぶかしむ。
だが、彼女はエルノールの様子を見るべく、これへの指摘を控えた。

『そちの魔女達、なかなか面白い魔法の使い方をしていたようじゃな』
「はっ……。迂闊に建物を壊せば、サバト全てに対する敵意が向けられまする。そこで魔力を調節してあのように使ってみたのです」
『成程な。結果的に建物の損害に関しては何も言ってこなかったと聞いておる。これについては魔物娘の警官達からも証言を得ておるでな』
「しかし、何らかの形で仕返しはあるのでは?」
『それについても心配は無い。彼奴等は存外、面子を重んじておるようでな。特に、主犯である明石の存在が大きかったらしいぞ』
「確か、三日月君を拉致した主犯でしたな」
『うむ。彼奴について、とんでもない情報を得た。彼奴め
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