ティーパーティーから半年が経った冬の頃――
学園に「三日月朱鷺子を重要参考人として出頭させろ」という警察からの電話が入った。
とてつもなく高圧的な物言いで要求してくる警察に対し、途中で応対を買って出たエルノールが毅然とした態度でこれを断るが、警察側はこれに焦れて怒りを露わにする。
『犯罪者の子供が学校に通えるとでも思ってんのか? テロリストを匿ってるとして何時でも潰せるんだぞ』
「やってみるがよいわ。己は何様じゃ」
『何様だとぉ? 偉そうな口利くなや! 天下の桜の代紋に喧嘩売ってんのか、おめぇは!』
「じゃったら、何で今頃うちの生徒に難癖付けるんじゃ。おかしいじゃろう」
『こっちは守秘義務があるんだ! いちいち教えるかボケ!』
「ならば無理じゃ。恫喝で被害届を出されたく無くば、教える事じゃな」
『警察相手に被害届だと? ハッ、バカかお前? 無駄な事しねぇでさっさと出せや、ゴルァ!』
「断る。それに、それが相手に物を頼む態度か! 舐めるでないわ!」
『おい! ふざけ――』
ガシン!と受話器を叩きつけるように置いた学園長は不機嫌な顔で鼻息を鳴らす。
彼女は早速、自身が支部長を務めるサバト風星支部及び近隣のサバトに連絡を取り、「警察が妙な動きを取ったら知らせて欲しい」と言う旨を話し、了承を取り付けた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一方、警察では――
「で? 断られて、そのまま電話切られましただぁ? バカかてめえは!」
「申し訳ありません、明石警部!」
「謝って済むか! ガキの使いじゃねえんだぞ! はあぁー、ったく、こうなったら早速あの手を使うか」
「は? あの手とは……?」
「てめえがいちいち知る必要ねえんだよ。とっとと仕事に戻れ! このカスが!」
「はっ、失礼します」
「ったく、どいつもこいつも使えねえ奴ばっかだな!」
苦々しい顔を無理矢理平静に戻して、警察官は自分のデスクに戻る。
明石と呼ばれた警部は忌々しく舌打ちしながら、わざと聞こえるように文句を垂れ流す。
そうした後、不機嫌な溜息を吐きながら電話をかけ始めた。
『はい、警察庁警備局警備企画課です』
「企画課長を大至急」
『お待ちください』
保留の音楽が流れ始めて暫くした後、野太い男の声が受話器から響く。
『変わりました、企画課長です』
「正義の執行を」
『……ホシは?』
「テロリスト三日月夫妻の娘、三日月朱鷺子。そいつを神奈川県警管轄の横浜拘置支所に連行してもらいたい」
『場所は?』
「風星学園特別クラス学生寮。特徴、人相は後ほどメールで」
『了解した。データが届き次第、実行に移す(ガチャッ)』
「フッ……。警察に逆らう事がどう言う事か、たっぷり思い知らせてやる」
クールな顔に下卑た笑みを浮かべたその様は、明らかに下劣な欲望を孕んでいた。
この男、名を明石数秀(あかし・かずひで)と言い、凱達との因縁と遺恨の発端となる者の一人であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
数日後の深夜、学園に築かれた高い壁を難なく乗り越える複数の人影が現われていた。
彼らが目指すのは特別クラスの学生寮。
的確かつ無駄の無い動きで監視の目を巧みに潜り抜けるそれは、世界各国で擁する特殊部隊のものと同じだ。
「ホシは寮の最上階、この部屋だ。他には構うな。気取られるぞ」
「「「「「了解」」」」」
物々しい装備を身に付けているにもかかわらず、夜陰に乗じて難なく学生寮に入り込み、目的の部屋に侵入する。
何故これだけの情報を手に入れていたのかと言うと、警察が学園の生徒である身内や探偵、更にはストーカーをも抱き込んで秘密裏に総動員して調べ上げたからだ。
そして、これだけの手並みをこなす者達――その名を「特殊事案執行部」。
警察でも官僚を中心とした極一部の者しか知らないとされた秘密部隊にして、SATに匹敵する程の精鋭と装備を揃える戦闘部隊。
だが、その精鋭と言うのが非常に問題だった。
――警察は正義の執行者。法の絶対者にして神なり。警察に逆らい、侮辱する者に速やかな死を――
このとち狂ったスローガンの下、法的にも非人道な行いをする事を厭わない特段に危険思想の持ち主の警察官を選抜して構成されているが故に、存在自体が超国家機密であった。
特に警察の不祥事を暴く者、警察を批判する者達を即座に抹殺し、その証拠も一切残さないように訓練されている。
警察にとって都合の悪い存在と認定した人物の抹殺を最優先にする彼らは、冷酷非道にして任務遂行に一切の手段も選ばない。
その秘密部隊が朱鷺子に襲いかかった――!
完全に寝込みを襲われた為に抵抗の間も無く捕縛され、薬品を嗅がされて昏倒させられてしまう。
こうして朱鷺子は特殊事案執行部によって拉致され、サバトは思わぬ所で裏をかかれてしまった。
・・・
・・
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録