竜乗りとドラゴンと変わる世界

これは魔王がサキュバスとなる、少し前のお話。

龍騎士を輩出する、ある小国がありました。

その姿は高潔にして雄々しく、誇り高く―――
それは子供達の永遠の憧れ―――
そこに住む人々の最終到達点―――

それがこの国の最高の武の象徴、龍騎士の姿なのです。

象徴であるからには外敵を退け、民を守り慈しむ心、そして何よりもドラゴンとの交流が出来る者でなりません。
そう言った事から、龍騎士になるのは厳しいものである事は想像に難くない事だったでしょう。

ドラゴン―――
それは魔物の中でも最高峰の強さを持つ魔物の一つにして
「地上の王者」と称される強大な生き物。

数の少ないこの生き物が人間と言う格下の存在を認める事例は数えるほどで、相応の武を持っていても、交流できる者自体が殆どいませんでした。

更にこの国には12人の龍騎士と12匹のドラゴンがいましたが、現在は11人と11匹。
と言うのも龍騎士の一人が天寿を全うしてしまったからです。
パートナーだったドラゴンも彼以外の者に背を許す事を良しとせず、
制止を振り切りって人を寄せ付けぬ山の奥へ亡骸と共に飛び去り、
墓守となって喪に服してしまいました。

騎士ばかりか、ドラゴンをも失って困り果てた時の王は、12人目を探すべく国内に触れを出し、新たな龍騎士を探しますが、そうそう簡単に見つかるはずもありません。

けれど…、灯台下暗し、とはよく言います。

可能性を秘めているかも知れない、原石と言うべき一組が近隣に住んでいたからです。

*****

そこは王都から少し離れた洞窟。
原石になるかもしれない人間の青年と一匹のドラゴンがそこに住んでいました。

「ウグァル〜〜〜♪」
「んあ、んん…。あ…、おはよう、シンシア」
「ガウ!」

目覚ましに顔舐めをして青年を起こす、シンシアと言う女の子の名前を付けられた、このドラゴン。ドラゴンにしては異形の姿でした。
その姿を端的に言えば、青い鱗を持ち、角を生やしたライオン、と言えてしまうのです。
しかし、異形でありながらも流麗でしなやかな…、そう、人間で例えるなら王女のような風格がありました。
あまりにも異端な姿をしているが故に同じドラゴンからも仲間外れにされ、傷を負って洞窟に逃げ込んだ所にこの青年と出会い、以来共に過ごす様になっていました。

一方の青年、名をリューガと言います。
野性的な髪形をしながらも艶やかな黒髪を持ち、身体つきもそこいらの騎士と遜色の無いものでした。
しかし彼には普通の人と違う特徴がありました。右目だけが赤い色なのです。
その為、周囲の心無い偏見に晒され、彼を産んだ両親の死をきっかけに村八分にされ、遂には王都を追われていた過去がありました。

青年とドラゴンの出会いは今から数年を遡った、一つの出来事でした。
亡き両親から教わった狩りと薬草の知識があったのが幸いし、山での生活に多少の苦労をしつつも馴染み始めた頃にそれは起きました。
リューガはふとしたことから近くの洞窟に飛来した傷負いのドラゴンに出会ったのです。

彼が見たものはあまりにも酷い傷を負った異形のドラゴンでした。
心配して近づこうとしますが、ドラゴンは手負い。殺気をみなぎらせて我が身を守る事に懸命です。
けれど彼はその姿に何故か放っておく事が出来ず、恐れこそすれども、持ち得る限りの薬草の知識を駆使し、懸命に治療を重ねて行きました。

「グルルル…」
「これでもう、怪我は大丈夫だから」
「グルゥ…、ゥルル…」

恐れずに接する青年の姿に心打たれたのか、日を追うごとに彼を少しずつ許し、彼の治療を受け入れていきました。
その甲斐あって数ヶ月の日々を経てドラゴンの傷は癒えていき、完治する頃には自由に飛ぶ事も出来るようにまで回復する事が出来たのです。

傷が完治して調子を取り戻した頃、ドラゴンはお礼にとリューガを背に乗せる事を許し、共に空を駆けました。

心地よい風―――
小さく見える王都や街並み―――
限りなく広い大地の彼方―――
自分が空の上にいる事実―――

迫害された青年にとって全てが感動に満ち溢れる体験でした。子供に戻ったかのように心が躍動していたのです。
今までの事が空から見下ろす町並みのように何もかもが小さく見えてしまうくらいに。
ドラゴンもまた、この青年の事を慕い、彼以外にこの背を許す事はしないと誓いました。

「綺麗な姿…、うん!きみはシンシア…、シンシアだよ!」
「ガウオオオオオ!」

咄嗟だったとはいえ、あろうことかリューガは女の子の名前をドラゴンに付けてしまうではありませんか!
けれどドラゴンからは嫌がる気配が感じられませんでした。それどころか、すんなり受け入れるかのように高らかな咆哮を上げていました。
ドラゴンの雌雄の区別というのは人間には分かりづらいも
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