転:ご都合主義は世の習い。

「どうした?B、ずいぶん眠そうだな。」
教授は今日もつやつやした顔で言う。
「いや、昨日ちょっと…。」
「ふん、若いね。」
「違いますよ!」
朝、八時近くなっても寝ていたイライザを起こすと、しばらく呆然としていたが。やがて昨日の自らの所業を思い出したのか、両手で顔を隠し、ベッドの上で丸まってしまった。
仕方ないので、彼女の分の朝食と部屋の合鍵を置いて、一足先に学校へ来たわけだ。まあ、彼女は三限からだから問題あるまい。
「教授、どうして彼女をこの学校に入れようと思ったんですか?」
尋ねると、教授は急に真顔になった。
「魔王が代替わりして、魔物はすべて女性の姿となった。彼女たちは我々と言葉を交わし、分かり合うことができる。彼女たちは人間と同じように、美しいものを愛で、弱いものを慈しみ、人を愛することができる。ならば我々教育者は彼女達のためにも学び舎の門扉を開放し、平等な教育をすることこそが、新しい世代の発展のために最も重要なことではないだろうか!」
マジかよ。この人がこんな深いこと考えてたとは。
「…という風に書き出そうと思うんだ。論文は。」
「論文かいっ!」
そうだったな。この人にとって生徒は実験動物だ。この人が理系でないことを天に感謝する。
「要するに、魔物が学校生活を送れるか、実験してる、と。」
「まあ、そうだね。僕は一応教育学者でもあるんでね。商人が金銭欲で動くなら、研究者は探求欲で動くものだよ。」
ここまで開き直られると、怒る気にもならない。
「それにね、教師としてはね、未知の可能性、ってのを見るのが楽しみでね。逸材だよ。」
教授はにっこりと笑う。
「彼女も、君もね。」


下駄箱から、ひらりと一枚の紙が落ちた。
おそるおそる開くと、そこには単純な文章。
『もげろ! byメイスン』
何がもげるのかは考えないようにして屑籠へスリーポイントシュート。
「何ですか?」
両手で眼鏡を上げるイライザ、なぜか先日以来彼女は伊達眼鏡を着用している。
「いや、なんでもない。それより疲れてない?ごめんね、この間は無理させちゃって。」
「だ、大丈夫ですよ。楽しかったですし、それにドリンクもちゃんと飲んでますから。」
ドリンク、とは魔物が精の代用として簡易的に服用する魔力補給剤である。
一般の食物から栄養をとれないイライザにとっては、唯一の栄養源だ。
最近、慣れてきたためかイライザに話しかけてくる人間もそこそこ増えた。メイスンが広めたらしく、歌を歌ってくれなんていう奴もいたりして、本人は若干困っている。
「ま、いい傾向じゃないか?」
教室の扉を開け、中に入る。
ざわっ、と、どよめきが起こるのが分かった。
え?何だこの空気。
「おい!B、これ読んだか!?」
メイスンがなにやら上質紙に書かれた文書を手渡してくる。
「…。マジかよ…!」
書類はいかにも物々しく形だけ見せかけの重厚長大な文章だったが、要約するとこう。
過去の亡命貴族の家柄であるセボン家とカーディフ家は、今回、魔物を入学させたことに抗議し、当大学への寄付金を打ち切る。というもの。
ベータスフォード大学は、その運営費の約四割を協賛する貴族や資産家からの寄付金に頼っている。この事態は大学の運営そのものが危機にさらされたことを表す。
気がつくと、周りじゅうが僕達を取り囲み、こそこそとつぶやき合っている。
あっという間に振り出しに戻ってしまった。
いや、状況はより酷い。
最初と違い、今は彼らはイライザを公然と糾弾できる大義名分を持っているのだから。
「ちょっと、どうする気!?」
サディアが人の波を押し分け駆け込んでくる。
「アンタ、とんでもないことしてくれたわね!」
サディアはイライザに詰め寄ると、さも風圧で押し倒さんとでもしているかのように言葉を浴びせた。
「冗談じゃないわ!あんた分かってるの!?アンタ一人のためにこの学校全体が窮地に立たされてるのよ!?どう責任取る気!?」
イライザの顔には恐怖がありありと浮かび、目には涙が浮かんでいる。
「何とか言ったらどうなの!?」
「ご、ごめんなさい…。」
「謝るくらいなら、今すぐ出て行け!この、ば…。」
「はい、ストップ!」
無理やり二人の間に割って入る。
「なによ、B。コイツをかばうの?」
「別に庇ってる訳じゃない。蝶がカマキリに食われそうになってたら、つい助けてしまうのが人間だろう?」
彼女の眉がピクリと動く。
「考えてみなさいよ、こいつ一人のために、大学の存続が危ういのよ!」
「おや、おかしいな。僕はてっきり寄付金を出していたのはどこかの貴族様だと思っていたんだが、彼女が出してたのかい?」
「そういうことじゃないの!コイツがいるせいで寄付金が出ないんだからコイツのせいでしょう!?」
「おや、そうかい?僕が高校の頃宿題を出せなかったのは、音楽のラ
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