「な、何を言っているんですか!」
声を張り上げるクリス。
「じょ、冗談ですよね?」
「冗談を言う目に見えるか?」
「…!」
クリスは後ろめたそうに目をそらした。
「まず、違和感を感じたのは、アンタの言葉だ。」
俺は機械的に話を進めていく。
「俺の傷を見たとき、アンタは、『どうしたんですか?』ではなく、『一体誰に?』と言った。何故この傷が他人に負わされたものだと分かったのか?」
「た、たまたま言ってしまっただけです。深い意味は…。」
「次に奇妙に感じたのは、マルコについて。」
クリスが言い終わるより前に俺はまた話し出す。
「マルコは、俺の羽織を借りて着ていたがために、俺と間違われて刺された。」
「それが…、どうかしたんですか?」
クリスが、鋭い声で訊く。
「考えても見ろ、夕暮れ時とはいえ、まだ多少日はあったのに、どうして犯人は顔を確認せずに背中を刺したんだ?」
クリスの眉がぴくりと動く。
「殺人を実行するなんて時だから、焦っていたんじゃないですか?」
「それ以前の四人は、袋小路の隅まで追い詰めた上で、真正面から刺されてたんだぞ?」
「それは…。」
クリスがす、と一歩身を引いた。
「考えられることは一つ。犯人は、俺に顔を知られている人物であった。」
「それは、推測に過ぎません!」
クリスが細い声を張り上げた。
「まあ、そうだな。確かに偶然だと言ってしまえば言えないこともない。じゃあ、これは?」
俺はゆっくりと足を上げ、汚れた足跡を見せた。
「…。靴が、どうかしたんですか?」
怪訝な目でこっちをにらむクリス。
「雨が降ったのは、知ってるか?」
「ええ、窓から見えました。」
「あの時、俺は、ちょうど警察署の前に居たんだ。」
「…。だから?」
クリスがいらだった様子で尋ねる。
「つまり、アンタが来たのは雨の前だったわけだよな?」
「ええ、だからなんだと…。!」
クリスは目を見開き、慌てて足元に目を落とした。
「察しが良いな。」
俺は、ゆっくり、確認するように話す。
「雨の後買い物に行ったエドモンドは分かる。では、署に着いてから一歩も外に出ていないはずのアンタの靴に、何でまだ乾いていない泥がついているんだ?」
「それは…。ですね…。」
バン!
突然、クリスが壁に手のひらを叩きつけた。
壁一面に複雑な魔方陣が展開していく。
クリスが、にやりと笑った。
と、
突然術式にひびが入り、魔方陣が崩壊していく。
「な!?」
そのまま、魔方陣は跡形も無く掻き消え、もとの殺風景な壁だけが残った。
「なんで…?」
俺はポケットからお札のような紙を一枚取り出した。
「悪いな。ドアの外側に魔瘴封じを貼らせてもらった。この室内では、魔力に依存する力は使えない。」
「くっ…!」
口元をゆがめるクリス。
俺はふう、と一息深いため息をつく。
「完全に盲点だったよ。パンデモニウムを経由すれば、移動時間も距離も関係ない。」
「いつ、私がダークプリーストだと?」
クリスの頬を汗が伝う。
「まあ、この国じゃ放埓な聖職者も多いからな、初めは違うかと思っていたが、確信があった。」
「確信?」
「そりゃ、まあ、いろんな奴がいるさ。礼拝をサボる奴もいる。女色に溺れる奴もいる。でもな、」
俺は指を一本立てた。
俺たちが、彼女にはじめて会った、あの時。
「主神教の信者で、くしゃみしてる相手に十字を切らない奴など、俺は見たことが無い。」
クリスがはっと口元を隠す。
「そ、そんな、ことで…。」
俺は彼女をまっすぐと見据え続ける。
綺麗な二重の目が、怯えるようにこちらを睨んだ。
「なんで?なんで!?絶対分からないはずだったのに…。」
俺はまた一息つき、そして、ゆっくり口を開く。
自分でも、恐ろしいほどに、重たい声がこぼれた。
「何故殺した?」
クリスは、糸が抜けたように俯いた。
ぶらり、と細い腕が力なく垂れ下がる
「だって…、だってあの人たち、泥棒だもの。」
「泥棒?」
「そう!」
跳ねるように顔を上げるクリス。
「なんでもないようなフリして近寄ってきて、騙して、下品な手で誘って、奪おうとする。私の、エドを!」
凍えるような叫びが、部屋の壁にしみこんでいく。
「私は、エドを愛してる。世界の、誰よりも。魔物になって、いや、なる前から、私に居場所なんて無かった。誰も、私を見なかった。それなのに、あの人は、隣にいていいって、言ってくれたのよ。私を見てくれるのは、愛してくれるのはエドだけ。なのに、あの人達は、遊びみたいな気持ちで、私からエドを奪おうとした。」
クリスの口元だけが、にこりと笑顔を作る。
「だから、殺した。それだけ。まだまだ、足りないの。変な女に、言い寄られて、エドは困ってるの。だから、もっと、殺さなきゃ。」
クリスが襟元に手を当てた。
気づいたときには、もう、遅かった。
「そいつらも…。
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