「主殿!お帰りであります!」
抱きついてくる少女の頭頂部に拳骨を落とす。
「な、なんで殴るのでありますか!?」
「やかましい、死にかけてんだからもう少し緊張感のあることを言え。」
「意味が分からないであります!」
こっちでぎゃあぎゃあ騒いでいると、部屋からクリスが顔をのぞかせた。
「あ、あの、警部さん?大丈夫でしたか?」
「ん?ああ、大丈夫。」
襲撃された、とは言わないほうがいいだろう。余計な不安を煽るだけだ。
パニックでも起こされては困る。もちろん彼女もだが、
「只今、クリス!怖くなかった?もう大丈夫だよ、って、警部さん、早かったですね。」
主にコイツが。
「つーかお前、何処行ってたんだ?外出怖いんじゃないのか?」
「あ、いや、まあ、明るいところを通っていきましたし。」
ぽりぽりと頭をかくエドモンド。
「買い物か?」
「ええ、一晩過ごすんで、簡単な軽食と、本屋で雑誌と、あと薬局に寄って…。」
「薬局?」
ほら、とエドモンドは袋の中を俺に見せた。
小さな箱が一つ。
…。
「夜は長いですから♪」
「警察機関をなんだと思ってんだこの大馬鹿野郎!」
廊下の隅でクリスがうつむいている。
買ったものが恥ずかしいのか、それともコイツが恥ずかしいのか。
「あ、そうそう、クリスさんったら、ひどいのでありますよ!」
は?何したんだ。あの清楚な美人が。
「一緒にトイレに行ったとき、ずっと返事しててほしいって約束したのに、途中で黙っちゃうのでありますよ!?おかげで小生はずっと恐怖に耐えながら用を足すことに…。」
げし。
脳天チョップ。
「すいません。うちのガキがご迷惑おかけしたようで。」
俺は少女の頭を鷲掴むと、ぐいと下げさせた。
「はい!?え、あ、い、いえ、こちらこそ…。」
クリスは大慌てでかぶりを振ると、そっぽを向いてしまった。
ちょっと物憂げな表情がなんとも美しい。
と、いうか、あんなもん買ってたっつーことは普段からあの男とアレで。
さすがにイラッとくる。世界は不平等だ。
俺だから良いものの、マルコが知ったら血管切れるだろうな。
「って、ちょ!?主殿!?」
突然少女がすっとんきょうな声を上げる。
「今度は何だ?」
「頭!血!血が出てるでありますよ!?」
「は?」
「え、どうしたの?て、うわ!!本当だ!!」
パニクる少女とエドモンド
額に触れてみると、確かに手に赤黒い液体が滴る。
かわし損ねたか。
「刑事さん!?一体誰に!?」
心配そうにこちらを見つめるクリス。
「あー、えっとな…。」
もうこうなってしまったら仕方が無い。
俺は三人に現場を見に行った際に出くわした一部始終を話した。
「それは、本当でありますか?主殿。」
少女がおそるおそるといった様子で尋ねる。
「ああ、残念ながらな。」
「どうするんだ!?ここに乗り込んでくるかもしれないんだろ!?」
今までなら一笑に付す所だが、あながち無いとも言い切れない。
何故背後を取られたのか?
後を付けられるようなことは無かったはず。途中明るいところは何度も通ったし、あの闇の中、まさか足音に気づかないなんて事はあるまい。
かといって、偶然現場を再確認しに来たところを、獲物と出くわしたので、突発的に襲った、という風でもなかった。あの格好は、明らかに俺を狙ったものだ。
だとしたらどうやって?
冷や汗が傷口に入り、ピリッとした痛みが走る。
ん?
今、また何かが分かったような…?
「どうしたんですか?刑事さん。」
「いや、何だか、犯人について分かってきたような気がして…。」
「本当ですか!?どのくらい!?」
勢いよく身を乗り出すエドモンド。
近くで見ると、意外と色の白い顔をしている。
「いや、まだ、なんとなく分かりそうな気がする、というだけで…。」
エドモンドは、ふう、とため息をついた。
不安そうな表情で、こちらをじっと見つめている。
「悪かったな、とりあえず、今晩は部屋から出ないほうがいい。」
わかりました。と、エドモンドはクリスの手を取った。
クリスの頬がぽっと染まる。
「じゃあ、失礼します。」
そう言うとエドモンドは、クリスの手を引いて部屋へと戻った。
薄い扉の閉まる乾いた音が、いまだ暗雲立ち込める外の闇に、こだました。
「おい、どうした?」
さっきから少女が下を向いたまま黙っている。
「体調でも悪いのか?」
「…であります。」
「は?」
よく聞き取れない。
「主殿を、守れなかったであります…。」
少女は、蚊の鳴くような声で言った。
お前な。
「守れなかったも何も、お前を連れて行かなかったのは俺だろ!?」
「それは元を正せば小生のわがままのせいだったではないでありますか…。」
そんなことで落ち込んでたのかよ。
「何がわがままなんだよ。第一、いたからどうだったって訳でもないだろ?」
「訳でありますよ!何か
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