4.人生において重要なのは、勢いである。

「ど、どうだったでありますか?」
警察署の前の階段に座り込む俺に、少女が心配そうな顔で尋ねる。
「死んではいない。まだな。」
マルコは背中を深く刺され、未だに意識不明の状態。
得物は今までの犯行に使われたものと同じ。要するに犯人が刺したのだ。
そして、その原因を作ったのは…。
「俺か。」
「え?」
「マルコが刺されたのは、俺の所為だ。」
あの羽織を、マルコに貸さなければ、今頃生死の境を彷徨っていたのは、俺だ。
アイツを見当はずれの犯人探しに付き合わせなければ。
アイツを、突き放していたら。
アイツは、マルコは、
「あ、主殿の所為などではないでありますよ!悪いのは犯人でありま…。」
「違う!」
マルコが俺を慕っていたんじゃない。
俺が、マルコに依存していたんだ。
あれだけ、助けてもらっておきながら。
自分の弱さを、肯定してもらっておきながら。
「俺は、アイツを、守れなかった。」
言い訳もできない、情けない理由で。
何も、変わっちゃいない。
事態は、ただ悪化しただけだ。
恐らく、殺人は続く、これからも、ずっと。
俺は、一体何をしていたんだ。
「俺には、何も、守れないのか。」
俺は懐から銃を取り出す。
「主殿…?」
そのまま、ゆっくりとこめかみに銃口を押し当てる。
ひんやりとした鉄の感触が、やけに心地よく、現実離れした安らぎを覚える。
ああ、これで、もう、何も、見なくていいのか?
俺は、引き金に指を掛ける。
バン。
鈍い音と共に、世界がゆっくりと横転していく。
どさり、と俺の体は地面に倒れた。
「何やってるのでありますかーっ!!!」
とび蹴りを喰らった。と分かるまで数秒かかった。
「おま、何を!?」
「それはこっちの台詞であります!」
少女が涙目で叫ぶ。
「前から思ってたけど、主殿は阿呆であります!アホの子でありますよ!」
「アホ…。お前いい加減にしろよ…。」
「だってアホでありますもの!」
「んだとこの野郎!」
俺は頭ごなしに怒鳴りつけた。
「だって、だって、主殿は分かってないでありますよ!」
少女は目を伏せて、言った。
「小生は、主殿がいなくなったら、どうすればいいのでありますか…!?」
「知るかよ…。そんなもんお前の身勝手じゃねえか。」
「だったら、勝手に何もできないと思うのも主殿の身勝手であります!」
は…!?何だそりゃ!?
「マルコ殿は、殺された人たちは、守ってもらえなかったからって、今、主殿が死んで、喜ぶと思うのでありますか!?」
「そういうことを言ってるんじゃねえ!これは俺の問題なんだよ。何にも知らないで、勝手な口を利くんじゃねえ!」
「勝手で結構でありますよ!」
少女が腹の底から搾り出すように、叫ぶ。
「小生は、勝手であります!他の人が、主殿をどう思おうが、知らないでありますよ!ただ、小生は、小生は。」
まるで、殴りつけるように、声を吐き出す。
「主殿が、大好きなのでありますよーーーっ!」
空気が、音を立てて、変わった。
「主殿の、顔も、体も、手も、足も、声も、心も、全部大好きなのでありますよーっ!」
少女は投げつけるように言葉を吐き、大きく息を吸う。
「小生は、売られたのであります。」
ぽつり、と少女が口を開く。
頬を、雫が伝い、ぽとりと落ちた。
「元の主殿は、大切に、使ってくれたでありました。九十九神になったら、恩返ししようと思ってたでありました。でも…。違ったのであります。あの人は、小生を大事にしてたのではなくて、壊すほど、汚すほどにも、気に留めていなかっただけなのであります!」
まるで、あふれ出るかのような、嗚咽交じりのか細い声。
「通りすがりの、見も知らない異人さんに売られたときは、何が起こったのか理解できなかったでありますよ。船の中で、夜毎に泣いたでありますよ…。この国に来ても、珍しがられはしたであります。でも、皆、それだけであります。小生は、小生でなくて、反物や、浮世絵と同じ、見世物の一つだったのであります。飽きたら、もう、誰も小生なんか見ないのであります…。小生は、いらない子だったのでありますよ。」
ぽつり、ぽつり、
少女の涙を隠すように、雨が降り出した。
「それなのに、主殿はっ、小生を、見つけてくれたであります!格好いいって、言ってくれたのでありますよ?嫌いにならないって、捨てたりしないって、言ってくれたのでありますよ!?小生が、どれだけ救われたと思っているのでありますか!?」
少女と目が合う。
深く透き通った、夜の水面のような目
「どの口が、何も守れないとか言うのでありますか…?」
声を出そうとしても、喉から出てこない。
彼女の目に、射すくめられたかのように。
「主殿が、主殿だけのものだと思うのは、身勝手であります!」
声が、言葉が、胸を貫く。
前髪に溜まった雨粒が、ぽと、と額にすべる。
「小生は
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