1日目 午後/美紀

午前9時
私は廃寺に足を運んでいた
昨日ここで何が起きたか、正直詳しくは分からない
それでも、今私にある耳と尻尾には関係していることくらいは分かる

「・・・・・・彰人、今私の為に頑張ってるんだよね」

そして、彰人が私のこの変化をなんとかする為に今日出かけて行ったのも知ってる
でも、私は全くと言っていい程に体に違和感を感じていない
この「狐」に憑依されても・・・私は私なのだ

「とは言ってもね・・・流石にアレは無理」

確たる変化をあげるならば・・・嗅覚の変化だろうか
彰人の家にいると、いままで感じなかったほどの彰人の匂いが常に香っている
よく分からないけれど、それをずっと嗅いでいたら意識を持って行かれそうだった

「あ・・・そうそう、用事があったんだった」

私は、鳥居の前で立ち止まるのを止めて中に入る
そして真っ直ぐお堂の中へ進んでいく

・・・私は、それに全くの疑問を持っていなかった
まるでそれが当然のように、いつもの事の様に堂内へ入る

「うん・・・見える、こんなにいたんだ」

私の眼には、昨日は見えなかった「妖」が映る
彰人と同じ世界を見ていると思うと、少しだけこうなって良かったとも思う
でも今回の目的はそんな確認じゃない

「どれからにしようかなぁ」

ふと、一匹が欲情した笑みを浮かべてこちらに近づいてきた

「じゃぁ、君からね」

そう言って、私はその狐に手を伸ばす
――触れた瞬間、狐は炎の様に一瞬ぼやけてから私の手の中に消えた

それは憑依と言うよりも、こう表現した方が正しいだろう・・・
「吸収」と

「これで・・・17匹目」

私は昨日、16匹の狐を同時に体に取り込んだ
それがどうしたという訳でもないけれど・・・どうにも面白い事に気が付いたのだ

適当に話をすると
私の中に部屋がある
その部屋に狐が入る
狐はそこで、合体したりしなかったりする
合体した狐は「初めに私に憑いた狐」の一部となって、元の狐は力を増す
合体していない狐は「切り離す事が出来る」のだ

そこで、ふと思い浮かんだ事は

――――そういえば、彰人ってモテたよね――――

何故か、いつもなら嫉妬している事が
急に楽しい遊びになった様な気がして、心が躍った

「・・・うん、これで最後」

計34匹
内16匹が既に「私」の一部になっている

「彰人、喜ぶかなぁ・・・」

そんな事を考えながら帰路につく
その合間に、適当に狐を「食べて」いく
帰りつくころには「私」の一部になった狐は20匹を超えていた

「ただいまー、彰人ー、ご飯」
「今日の昼飯を作るのは美紀だろ」
「知ってる」
「もう一つ良い事を教えてあげよう」
「ん、何々?」
「俺は腹が減った」
「すぐに作るから、適当に時間でも潰してて」

手を洗って、冷蔵庫を漁る
そういえばそば飯が食べたいって言ってた気がしたから、焼きそばと冷凍ご飯を取り出す
あと、ふと目に入った豚肉も一応出しておく



「ご飯出来たよー」
「おーう」

彰人が食卓に着く
そこで、ふと違和感に気づいた
さっきまで料理の香りで気づかなかったけど・・・彰人の匂いが朝よりも濃く感じる
頭ばボーっとしてくるのが分かる・・・体が不思議と火照ってくる

「・・・・・・? おい美紀、気分でも悪いのか?」
「えっ・・・ぇ、ううん、大丈夫だけど」
「あんまり無理するなよ? 最近暑いからな・・・」
「そ、そうね・・・外歩いた後に火の前に立ったからかな・・・」
「待ってろ、ぬるいお茶持ってくる」
「あ、うん、ありがと」

立ち上がって、コンロの上に置きっぱなしにされているヤカンをとりに行く彰人
その背中を見て、一瞬不意打ちで押し倒してやろうかと言う考えがよぎった
押し倒して・・・その首筋に緩く歯型を付けて・・・・・・

「おい、ほんとに大丈夫か?」

彰人の声で、現実に引っ張り戻される
今・・・私、何を考えてた?

「う、うん・・・大丈夫だよ」
「熱中症か・・・? ちょっと冷えピタ持ってくる」

彰人はそういって、私の前にお茶を置いてリビングから出て行った
しかしなんだろう・・・さっき彰人の背中を見ていたら、急にボーっとしてきたけど・・・
狐を取り込んだ副作用・・・みたいなものかな・・・?

「ん・・・だいぶマシになってきた」

本人が目の前にいないからか、さっきまでの感覚は薄れていた
とりあえず、目の前の昼食を食べる事にした

「おーい、持ってきたけど生きてるかー」
「勝手に殺さないでよ」
「お、さっきよりはマシになってるみたいだな」

彰人はそう言って、私のデコに手を当てた
今度は意識がはっきりしたまま体の芯が熱くなる

「んー、ちょっと熱いか・・・冷えピタ張っとくぞ」
「ん」

張られた冷えピタは冷たかったけど・・・それでも体の奥から上
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