第四章 隠れ里


目を開く、少し頭がぼんやりとしているか、思考がまとまらない。
しかし脳裏に闇蜘蛛殿の顔が浮かび、すぐに飛び起きた。
「闇蜘蛛・・・殿?」
闇蜘蛛殿はいた、私の目の前に。
とりあえず状況を整理しよう、私は闇蜘蛛殿と見張り台にて襲われ、その後。
どうしたんだ、その後、記憶が無い。
そしていま、私は布団に寝かされていて、体に包帯を巻かれているのと。
その上闇蜘蛛殿が、私に抱きついて寝ている。
「あら〜起きましたか〜?」
妙に間延びした声を聞いて、可能な範囲で少し辺りを見渡す。
部屋に水路が通っている、どうやらここは水棲の妖も出入りできる仕組みらしい。
その水路から女性が顔を出していた。
「少し待っていてくださ〜い、今先生を呼んできますので〜。」
「あぁ、少し聞いていいか?今何時だ。」
外は暗い、少なくとも最後の記憶には太陽は出ている時間のはずだった、かなり寝ていたらしい。
「え〜と、亥の刻過ぎだと思います〜では〜。」
女性は水に潜って行ってしまった、亥の刻か、闇蜘蛛殿の巣穴から出た時間を確認していないから何とも言えないが、やはり相当寝ていたのは確かだ。
「ぬ・・・。」
体を起こそうとするも、闇蜘蛛殿がかなりの力で私に抱きついている、簡単には離れそうにない。
その反動で体がズキズキと痛む、大人しく寝ているか。
少し待つと部屋に誰かが入って来た。
白衣を着ている男性だ。
「気分はどうだい?」
医者らしいその人物は、箱に様々な治療器具を詰めて持ってきていた。
「問題はない、迷惑をかけたらしい。」
医者殿は闇蜘蛛殿を見て苦笑する。
私も闇蜘蛛殿をはっきりと見るが、闇蜘蛛殿は髪も服も顔も、真っ赤に染まっていた。
「その子、君から意地でも離れなくてね、大分錯乱していて終いには泣き出したんだ。」
闇蜘蛛殿が か、見捨てろと言ったのに。
守るどころか、命を救われてしまった、情けない事ここに極まれり、だ。
「彼女に変わって謝らさせてもらう、申し訳なかった、そして助けてくれた事を感謝する。」
「いやいや、構わないよ、この子が離れなかったのはそれだけ君が愛されていると言う事だからね。」
その言葉、いまいち実感がない。
闇蜘蛛殿はあくまで私以外に頼れる人間がいないから、消去法的に私を助けた、そんな気がしてならない。
命の恩人に何を言っているんだ、とも思うがな。
「これでその子も落ち着いてくれるな、泣き疲れて寝てしまった様だが・・・彼女を離しても構わないか?この子が抱きついている部分の治療ができていないのだ。」
がっしりと力強く私にしがみついている闇蜘蛛殿を見る。
正直 悩んだ、助けてくれた闇蜘蛛殿をそんな扱いしていいものか、それとも現実的な考えで離した方がいいだろうか。
ふむ、考える必要はなかったな。
「このままにしてくれ、闇蜘蛛殿も不安だったのだ、それこそ私なんかに泣きつく程にな。」
「ウチも〜その方がいいと思いますよ〜?多分〜離そうとしたら〜また暴れちゃいます〜。」
先程の女性、鰻女郎だろうか、再び水面から顔を出して、水から上がって足を水に浸けたまま座り込んだ。
やはり、鰻女郎だったか、独特の足の模様をしている。
「理由を聞いても?」
「妖の〜勘を舐めちゃいけませんよ〜ウチだって〜例えばあなたと抱き合っている時〜離そうとされたら、絶対暴れますし。」
最後だけ強い口調で言う、確かに妖は男関連では信じられない力を出す事があるからな、こうなっては手を出さないのが一番だ。
私は闇蜘蛛殿の頭を軽く撫でる。
髪に染み込んだ血が固まって妙な肌触りがする、変に刺激をして闇蜘蛛殿の睡眠を邪魔しない様に気をつけなくては。
「それで、ここはどこなんだ?」
「ふむ、まぁ君達もほとんど『同士』か。」
妙に意味深な発言をしつつ、鰻の嬢ちゃんに耳打ちする、鰻の嬢ちゃんは潜って行った。
「くれぐれも口外して欲しくはないのだが、ここは『鷺の隠れ里』賽目川上流にある妖の隠れ場だ。」
「賽目川の上流に隠れ里があったのか・・・。」
隠れ里は聞いた事がある、くノ一やカラステング等の修行場兼移住地の事だ。
普通は隠されていて厳しい管理の下にあり、森に入り近づいた者は感覚を乱され、森の入り口に戻されると言う。
「ここは比較的大らかな所でね、身寄りの無い妖はもちろん身寄りの無い人間や、あまり人里に行きたくはないが買い物が必要な妖を受け入れているのだよ。」
「それで・・・闇蜘蛛殿が私をここに連れて来たのか。」
すると医者殿は違うと呟いた。
「その子が必死な形相でこの森に迷い込んだんだ、この状況の君達を見捨てろ、なんて誰が言える?」
そうか、闇蜘蛛殿は相当必死に私を助けようとしてくれたらしい。
「申し遅れた、私は流木の町で傭兵をしている、藤太郎と言う、こちらは・・・連れの妖でな、何かあったらしく名前を
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