私は洞窟の中で迷った。
確定的に、不可逆的に、絶望的に。
迷った。
「これは予測しなかった・・・。」
迂闊だった、こんな事になるとは。
「ましてや洞窟の中では救助率も・・・。」
奇跡的に闇蜘蛛殿に出会う事を願うしかないか。
遭難後しばらく経過して、時間感覚も無くなってきた。
「どうするかな。」
どうしようもないな。
一度立ち止まる、止まるべきか進むべきか悩む。
そもそもどちらが前か後ろかすらもあやふやになりつつある。
「闇蜘蛛殿!いないか!?」
食料はない事はない、羊羹だが。
これだけあれば二日は生き残れる、いや上手くやりくれば一週間も無謀と言う訳ではない。
体力は抑えんと、叫ぶのは控えるか。
しかし闇蜘蛛殿との遭遇率も考えると叫ぶ方がいい。
「何してんのよ。」
驚いた、振り返るとぶかぶかの上着だけを羽織った闇蜘蛛殿が不機嫌そうな顔をしていた。
助かった、のだろうか。
「闇蜘蛛殿、元気そうでなによりだ、実は・・・興味本意でここに入ったのだがな。」
「迷ったの!?」
闇蜘蛛殿は楽しげに声に上げる、やれやれ。
そして闇蜘蛛殿は大声で笑いだした。
「あっはは!あーは!バッ・・・カじゃないの!?」
「否定できないのが悲しい所だな、ちょうどいい闇蜘蛛殿に会いたいと思っていた所だ。」
ぼっと一気に闇蜘蛛殿は赤くなった、ギギギっとぎこちない動きで振り向く。
「あ、会いたい?私に?」
「あぁ、もちろんまだ嬢ちゃんと話したい事があるからな、ほら土産だ。」
闇蜘蛛殿に包まれた羊羹を差し出す、それを見た闇蜘蛛殿は一転して冷ややかな瞳に戻った。
「そう、追い出して悪かったわね、誰かさんが余計な事言わなければ話くらい聞いてあげたのに。」
「そう怒るな、それと・・・服を持って来た、これからはこれを着ろ。」
多分似合わないと言う事はないはずだ。
服屋で中々気まずかったな。
「服?あんたが・・・選んだの?」
「そうだ、服がないと町を歩けんからな。」
闇蜘蛛殿は露骨に嫌そうな顔をする、流石にそうか。
突然すぎるが、少しずつ人に慣らしていこう。
彼女の蜘蛛糸ならばあの町の補強材として十分な強度があるはず。
それに町長直々に頼まれてしまったしな。
「町・・・?」
「強制はしない、だが私の町を是非とも見てもらいたいのだ。」
闇蜘蛛殿は人を恐れている、だが私の町の人々は恐れる様な者達じゃない、きっと闇蜘蛛殿とも仲良くなれるはず。
「では今日は・・・そうだな、この穴から地盤を調べて・・・。」
「町、行ってあげてもいいわよ。」
正直かなりの驚きの色が顔に出ていたと思う、思ってもなかった展開だ。
できるだけ平静を装う、私が変な感情を表に出せば闇蜘蛛殿にうつってしまう可能性があるからだ。
「そうか、では着替えてくれ、私は後ろを向いていよう。」
「見ないでよ、絶対見ないでよ、見たらその目潰すから。」
「分かっている、だが今更ではないか?昨日は裸同然・・・。」
背骨に強い一撃を受ける、一瞬だけだが呼吸に難がでた。
「うるさい。」
気難しい娘を持つ、と言うのはこう言う気持ちか。
〜〜〜〜〜
噛みたい。
初めてこの男にそう言った欲求を感じた。
その無防備な首筋。
そこにこの牙をめり込ませたい。
そして肌を貫いて、私の唾液を。
物に名前をつける様に。
そっとナプキンで先に手を拭く様に。
ガラス玉に手垢をべっとりとつける様に。
自分の物である証を。
誰にも触れられていない物を自分の物であるかの様に汚すみたいに。
咬みたい、咬みついて、そして。
「闇蜘蛛殿?」
〜〜〜〜〜
「闇蜘蛛殿、大丈夫か?」
振り返る訳にもいかず背中を向けたまま声をかける。
なにやら妙な寒気がしたのでな、穴の中だから襲われる心配はないはずなのだが。
「・・・もう、いいわよ。」
そうぶっきらぼうに告げる闇蜘蛛殿、その声に従って振り返ると、そこには。
「どう?」
比較的明るい印象を受ける花柄の着物の上に、私の渡した上着を着ている闇蜘蛛殿がいた。
闇蜘蛛殿の顔立ちは整っているのに暗い印象を受ける。
せめて少しは明るい印象にならないかと明るい着物を選んだのだが。
「うむ、中々だ。」
優しい黄色に赤と黒が映えていた、私はあまりこの手の感覚は悪くはないが、中々似合っている様に見受けられる、のだが。
「余程その上着を気に入ったのか?その上着は別に捨てて貰っても構わんのだが。」
昨日私の渡した上着をその上に羽織っていた。
「別に、私の勝手でしょ。」
闇蜘蛛殿は顔を隠してそう吐き捨てる、気に入ったのか気に入ってないのかよく分からない反応だ。
ところが闇蜘蛛殿は私に背中を向け屈みこんでしまった。
「どうした?」
急に大人しくなられると心配になる、私が闇蜘蛛殿の肩にそっと手を乗せると。
「ひっ!?」
少し悲鳴を上げて、私から距離を
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