流れ者、変わり者、好き者。
人間だろうと獣だろうと妖だろうと、普通とズレた者 ズレてしまった者はいる。
とは言え昨今好き者と言う言葉は褒め言葉になりつつある。
稀に群れに種類 種族 種別の違う、所謂異物が紛れ込む事がある、その異物は自然に溶け込む事もあれば即刻排除される事もある。
掃き溜めに鶴、泥中に蓮、アカオニの中にアオオニ。
意味は違えど異物と言う点では同意だ。
アオオニは違うな、アカオニにとっては大事な仲間か。
ともかく異物と言うのは排除される可能性が高い。
「『闇蜘蛛』の調査・・・ですか。」
「ええ、そうですわ。」
『闇蜘蛛』とやらは異物だった。
〜〜〜〜〜
流れ流れて流れ着いたこの流木の町、鯨の様に巨大な流木を土や石で固めてその上に町を作ったらしい。
最近ではさらなる補強の為に色々と苦難しているそうな。
今私はこの町の町長に呼ばれていた。
私と毛娼妓殿とは静かな一室に机を挟んで座っている、私は茶を少し啜った。
「妖だとしても・・・少なくとも私は闇蜘蛛なんて聞いた事がないのだが。」
町長である毛娼妓殿に呼ばれていた、彼女とはそれなりに長い付き合いである。
妖ではあるものの既に夫持ちであるのでこちらとしても気の置けない相手だ。
「闇蜘蛛と言うのは今の所の仮称であります、姿を見た と言う者がおりませんので。」
一つ疑問が出た、見た者はいないと言うのにその存在感を町長である毛娼妓殿に少なからず危惧されている。
「その闇蜘蛛と言う妖についてどの程度分かっているのだ?毛娼妓殿。」
「相変わらず、貴方は名前を覚えてはくれませんね、椿花です。」
そうだそうだ、椿の花と書いて ちか だったな。
こう言うと椿花殿の夫殿に睨まれてしまうが、なんとも字面に似合わない可愛らしい名だ。
私も娘にはこう言った名前を付けてやりたい。
「おおそうだ、椿花殿か、いやはや面目無い。」
私は昔から人の名前を覚えられない。
椿花殿はこうすぐに思い出せるのだが、他の者達だとこうはいかん。
「ふふ、貴方は変わりませんね。」
「雑談したいのは山々だが、私としては本筋である闇蜘蛛が気になる、話を戻さんか?」
椿花殿はにこやかに微笑み、茶を仰いだ。
「そうですね、申し訳ありません。」
途端、椿花殿の髪が蠢き始める、椿花殿の髪は机の上にしばらく這いここら一帯の地図を作り出した。
だが私はその髪による地図より不自然な椿花殿の視線に目を向けていた。
「無理をするな 無理を、素直に差し出せ。」
「バレてしまいましたか、残念です。」
わさりと髪が片付けられた、その代わり一枚の地図が髪によって机の上に上げられた。
そしてどこに隠していたのか硯と筆を取り出した。
「まず旅の者が縦穴に落ちると言う事故がこの三点にて発生した。」
椿花殿は地図上の三点にバツ印を書き込んだ。
「縦穴?どれ位のだ?」
縦穴が突然空いたと言うのならそれはそれで事件だ、いや事件だからこそ私が呼ばれたのだが。
「十尺程です、それぞれ違いはありますもののどれも同行者がすぐに引っ張り上げられる程です。」
「ではその縦穴に問題が?話を聞くと突然穴が空き 落ちた様に聞こえるが・・・。」
こくりと頷いた椿花殿は再び机の下から紙を取り出した。
「穴が落とし穴の様に 突然空いたのですよ、中も虫喰いされたみたいにかなり複雑化している。」
すうっと一呼吸置いて。
「なにより穴の中はあまりにも淀んだ妖力が満ちていて、なおかつ巨大な蜘蛛の巣が張っていたらしいのです。」
先ほども少し思ったのだが蜘蛛と言うとどうしても女郎蜘蛛を想像する。
しかしやはりと言うか違うらしい、それもそうか女郎蜘蛛だったらわざわざ私をここに呼ばないか。
「妖力、と言うと立ち会った者の中に妖が?」
「アオオニの詩華さん一団が救助に携わりました、何でも・・・『睨みつけるみたいな嫌な妖力』だそうです。」
アオオニの詩華、確かあの人だ アオオニながら警備隊を率いてる嬢ちゃん。
オニは妖術は使わない分、妖力には敏感だからそのオニがそこまで言うとなれば確実に何かがいる。
「分かった、私の仕事はその調査だな。」
中々面白そうな仕事だ、それに椿花殿の頼みとあれら断れはできまい。
「それで、おそらくお耳に届いているでしょうが、地盤強化の為に是非とも闇蜘蛛様の力をお借りしたく思っています。」
椿花殿はにっこりと、艶やかな髪をなびかせて。
「それでは、よろしくお願いします藤太郎様。」
と言い放った。
やはり中々面白そうな仕事になってきた。
〜〜〜〜〜
まずは情報収集だな、アオオニ殿を訪ねてみるか。
「ふむ、甘味処へ行ってみるか。」
オニと言えば大体酒場か甘味処か、とにかく飲食店にいるだろうからな。
アオオニ殿がいなくても部下のアカオニ殿はおるだろう。
流木の上を歩く、街道は整
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