私は、誰なのでしょうか。
私は、何者なのでしょうか。
私は、私なのでしょうか。
生まれてから私は、私の生き方を選んだ事はありませんでした。
与えられた生、与えられた立場、与えられた名前。
それは結局、私が選んだ事ではなく誰かに与えられ、それに流され続けた結果でした。
まるで着せ替えられ続ける人形、流されて抵抗できないままに沈む流木。
だからでしょうね、この結末に至ったのは、私が何もしなかったから。
私の目には、私の心と同じようなぽっかりとした穴が空きました。
私は、光を失いました。
もし、この過去を変えられたら。
俺は、彼女を救えるのだろうか。
ガシャン、鉄の鎖を断ち切る音が、石造りの牢屋の並びに響いた。
その音で、牢屋の中は騒ぎたった。
「・・・誰ですか?」
目の前には、一人の女性。
陵辱されきった様な、最早犯す物はもうないという風貌。
服はボロ布を巻いている様なもの、下着なんてものは一切着けていない。
そして何よりその目は、真っ黒な穴だった、その双眸は失われていた。
改めてその姿を目にして、歯を食いしばった。
俺のせいだ、俺のせいでこんな。
過去を変えられないのなら、せめて。
「逃げよう。」
未来を、変える。
俺は彼女の手を取って、牢屋の外に出た。
鉄格子に思い切りぶつかる音がそこら中で鳴り響く。
「出せ!俺も出しやがれぇぇぇ!」
「俺は無実だ!無実なんだぁ!」
「ひっ・・・。」
女性は目を失った分俺の声に怯えた、しょうがないか。
俺はマントを彼女に巻きつける様に着せた、今更こんな物いらん。
そしてこの暴動手前は想定範囲内。
「お前ら出たいか?」
女性を抱き寄せ、そう告げる。
咆哮の様な大声がまた牢屋に響く、だろうな、それはそうだろう。
だから好都合。
「なら出ろ、出て好きに暴れろ。」
利用させてもらう。
俺は、もう騎士としては生きない。
でも彼女の騎士ではあり続けよう。
例え、それが偽りでも。
〜〜〜〜〜
外は正に地獄絵図らしい、悲鳴が地下まで聞こえていた。
まだ、もう少しだけ待とう。
地下牢の一室、倉庫で俺たちは待機していた。
倉庫の物資から使えそうな包帯を引っ張り出し、彼女の応急処置をしていたのだ。
最後に女性の顔を包帯でぐるぐる巻きにする、晒しているよりはマシな筈だ。
「騎士・・・様?」
「・・・俺は只の元兵士ですよ。」
もう騎士なんかじゃない、そんな誇りは無くした。
だから、騎士じゃなく俺はただの元兵士だ。
「騎士様・・・悲鳴が聞こえるんです・・・。」
それでも、女性は俺の事を騎士と呼んだ、この時だけは彼女の目が見えない事に感謝した。
きっと、その時の俺は酷い顔をしていただろう。
「聞くな。」
「きこえ、るんです・・・悲鳴が、泣き声・・・が、助けを乞う声が・・・。」
ぎゅっと拳を握りしめた、どうしようもない、本当に。
俺は、勇者じゃない、こんな時どうにかしてやる事はできないし、優しい言葉をかけられるわけでもない。
「だから、だからどうする?」
「え・・・。」
正義感が強いのはいい、優しいのはいい、切り捨てられないのはいい。
でもな。
「今あんたが行って、彼らを助けられるか?たった二人で?無理だ。」
「・・・はい。」
「逃げるぞ、逃げなきゃ・・・ならないんだ。」
「・・・・・・・・・はい。」
苦しいよな、辛いよな、嫌だよな。
でも、でも。
逃げなきゃ、死ぬ。
あいつは、彼女を許さない。
「・・・よし、行こう。」
扉を軽く開け外を確認する。
兵士はいない、俺は彼女の手を取り走り出した。
細く、弱々しいその腕を出来るだけ優しく握る。
「ひぃ!?」
突然女性の腕が俺の手の中からすり抜けた。
振り向けば女性は耳を両手で抑え座り込んでいた、ガクガクと震えている。
「止まるな!おい!」
今はとにかく進まないと、そんな焦りから強い言葉が出てしまう、それに彼女は震えを更に大きくした。
「い、たい、痛い!痛い!いたい!いたい!?」
おい、ここでそんな大声出したら。
そういう俺の言葉が口から飛び出す暇もなく。
「誰だ!」
その声に、俺は心臓が口から吐き出されそうな程に驚いた。
曲がり角から、3人の鎧の騎士が歩いて来る。
見つかった。
ほぼ条件反射で、右手が腰に据えた剣に伸びる、左腕で女性を引き寄せ、自分の後ろに無理やり動かした。
「くっ・・・。」
そして改めて真ん中の騎士の顔を見て、気付いた。
王国騎士隊長、一番会いたくなかった奴。
俺は強く柄を握った、勝てるわけない、だが。
逃げるわけにもいかない。
「・・・お前らは先に行け、こいつと話がある。」
「了解。」
ザッザッザッと二人の兵士は嫌に合わさった足音を立てて歩いて行った。
残ったのは、騎士隊長。
一騎討ちでも正直勝てる気がしない、しかし。
騎士隊長は手を前に出して「待て待
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